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-数学- 複素関数論(17) ガンマ関数の無限乗積と逆数の整関数性

今回はガンマ関数のガウスによる無限積表示を実解析の範囲で示します。またこれとワイエルストラスによる無限乗積が同値であることを示します。

そしてガンマ関数のワイエルストラスの無限乗積の逆数が整関数であることを紹介します。

 

ガウスによるガンマ関数の無限積表示定理:任意の$z\in\mathbb{C}$に対して、

$$\frac1{\Gamma(z)}=\lim_{n\to\infty}\frac{z(z+1)\cdots (z+n)}{n! n^z}$$

ここではいったん任意の正の実数$x$について証明します。

$$\gamma_n(x)=\int_0^n t^{x-1}f_n(t)dt, f_n(t)=(1-t/n)^n$$

とすると

$$\gamma_n(x)=x^n \beta(x,n+1)=\frac{n^{x}\,n!\,\left(x-1\right)!}{\left(x+n\right)!}=\frac{n^{x}\,n!}{(x+n)\cdots(x+1)x}$$

なので、$\lim_{n\to\infty}\gamma_n(x)=\Gamma(x)$を示せば良いのです。そこで$\Gamma(x)$を$\gamma_n(x)$で挟み討ちします。

$0\le t \le n$のとき$f_n(t)\le f_{n+1}(t), f_n(t)\le e^{-t}$が成り立つので、

$$\gamma_n(x) \le \gamma_{n+1}(x) \le \int_0^{n+1} t^{x-1}e^{-t}dt\lt \Gamma(x)$$

が成り立ちます。これより$\lim_{n\to \infty}\gamma_n(x)\le \Gamma(x)$です。

 

逆向きの不等号を示します。任意の正の実数$c$に対してそれより大きな$n$について、

$$\gamma_n(x)\ge \int_0^c t^{x-1}\left(1-\frac{t}{n}\right)^n dt$$

両辺の$n\to\infty$の極限を取ると

$$\lim_{n\to\infty}\gamma_n(x)\ge \lim_{n\to\infty}\int_0^c t^{x-1}\left(1-\frac{t}{n}\right)^n dt$$

ここでは証明を省きますが$\lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{t}{n}\right)^n = e^{-t}$でありかつ収束は$t\in [0,c]$で一様収束です。よって被積分関数列$t^{x-1}\left(1-\frac{t}{n}\right)^n$は一様収束するため、極限と積分を交換できます。

$$\lim_{n\to\infty}\int_0^c t^{x-1}\left(1-\frac{t}{n}\right)^n dt= \int_0^c \lim_{n\to\infty} t^{x-1}\left(1-\frac{t}{n}\right)^n dt=\int_0^c t^{x-1}e^{-t} dt$$

つまり

$$\lim_{n\to\infty}\gamma_n(x)\ge \int_0^c t^{x-1}e^{-t} dt$$

が成り立ちます。両辺で$c\to\infty$の極限を取ると、左辺は$c$に無関係であることに注すると、

$$\lim_{n\to\infty}\gamma_n(x)\ge\lim_{c\to\infty}\int_0^c t^{x-1}e^{-t} dt=\Gamma(x)$$

ここまでで、ガウスの無限積表示が正の実数の範囲で正しいことがわかりました。

 

ガウスの無限積表示からワイエルストラスの無限乗積表示を求めてみます。

$$\frac{(z+n)\cdots(z+1)z}{n^{z}\,n!}=\frac{z(1+z)\left(1+\frac{z}{2}\right)\cdots\left(1+\frac{z}{n}\right)n!}{n^{z}\,n!}$$ $$=z(1+z)\left(1+\frac{z}{2}\right)\cdots\left(1+\frac{z}{n}\right)n^{-z}=e^{-z\log n}z\prod_{k=1}^n \left(1+\frac{z}{k}\right) $$ $$=z\,e^{-z\log n}e^{z\left(1+\frac1{2}+\cdots+\frac1{n}\right)}\prod_{k=1}^n \left(1+\frac{z}{k}\right) e^{-\frac{z}{k}}=z\,e^{z\left(1+\frac1{2}+\cdots+\frac1{n}-\log n\right)}\prod_{k=1}^n \left(1+\frac{z}{k}\right) e^{-\frac{z}{k}}$$

最初と最後の式を結んで$n\to\infty$の極限を取りオイラーの定数$\gamma$を使うと、右辺が$z$が正の実数の範囲での収束を仮定すると

$$\frac1{\Gamma(z)}=z\,e^{\gamma\,z}\prod_{n=1}^{\infty}\left(1+\frac{z}{n}\right) e^{-\frac{z}{n}}$$

が成り立ちます。実際には右辺は$\mathbb{C}$で収束しかつ正則なのです。従って$\frac1{\Gamma(z)}$は右辺の式に解析接続できて$\mathbb{C}$で正則、つまり整関数であることがわかります。

ガウスの無限積表示が$\mathbb{C}$で成り立つことが分かりました。

Q.E.D.

 

最後の式の右辺の一様収束や正則であることは無限積の一様収束に関する命題を証明してからここに応用しても良いし、(ガンマ関数に限らない一般的な)ワイエルストラスの無限乗積表示の収束について証明してからそれをガンマ関数に応用しても良いです。この辺は参照している資料(柳田氏の講義資料や解析概論)にも載っていますのでそちらに譲ることにします。