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-数学- 複素関数論(10) ローラン展開と孤立特異点

円盤領域で正則な関数は冪級数展開ができましたが、円環領域で正則な関数はローラン展開ができます。今回は明治大学の桂田氏の講義資料をベースにこの辺の定義と定理を確認していきます。

 

円環領域の定義:同じ中心を持つ2つの円盤の間に挟まれた領域を円環領域と呼ぶ。領域は開集合だったので、中心を$c$、2つの円盤の半径$0\le R_1 \lt R_2 \le +\infty$に対して、記号$A(c;R_1,R_2)=\{z\in\mathbb{C} | R_1 \lt |z-c| \lt R_2\}$で円環領域を表す。さらに境界を含めた閉集合を記号$\overline{A}(c;R_1,R_2)=\{z\in\mathbb{C} | R_1 \le |z-c| \le R_2\}$で表す。

円環領域の定義では$R_1=0$を許しており、その場合は内側の円盤は1点$c$のみになります。また$R_2=+\infty$も許しており、その場合外側の円盤は$\mathbb{C}$になります。

 

円環領域のローラン展開の定理:円環領域$A(c,R_1,R_2)$で定義されてそこで正則な関数$f$についてある複素数列$\{a_n\}_{n\in \mathbb{Z}}$が一意に存在して、

$$f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z-c)^n + \sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_{-n}}{(z-c)^n},\, z\in A(c;R_1,R_2)$$

が成り立つ。右辺の級数は$R_1\lt r_1 \lt r_2 \lt R_2$なる任意の $ r_1, r_2$に対して$\overline{A}(c;r_1,r_2)$で一様に絶対収束する。またこの時$R_1\lt r \lt R_2$なる任意の$r$を用いて$a_n$を下記のように求められる。

$$ a_n=\frac1{2\pi\,i}\int_{|z-c|=r}\frac{f(z)}{(z-c)^{n+1}}dz\,,(n\in \mathbb{Z})$$

この展開を$f$の$A(c;R_1,R_2)$におけるローラン展開という。また$R_1=0$の時、この展開を$f$の$c$におけるローラン展開という。$\sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_{-n}}{(z-c)^n}$をローラン展開の主要部、$a_{-1}$を$f$の$c$における留数とよび$Res(f;c)$で表す。

ローラン展開の定理の証明はどの参考文献にも載っており、コーシーの積分公式の証明がわかれば必ず追うことができます。なのでここでは証明は省略することにしました。

 

そして孤立特異点の定義に進みます。ローラン展開の主要部の係数によって3つの種類の孤立特異点が定義されます。

孤立特異点の定義:$K$を$\mathbb{C}$の開集合、$f:K\to \mathbb{C}, c\in\mathbb{C}$とする。$c$が$f$の孤立特異点であるとは、ある正の$\varepsilon$が存在して、$f$は$A(c;0,\varepsilon)$で正則であり$c$では$f$は定義されないか定義されても微分可能でないことをいう。$f$のローラン展開

$$f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z-c)^n + \sum_{n=1}^{\infty}\frac{a_{-n}}{(z-c)^n},\, z\in A(c;0,\varepsilon)$$

とすると孤立特異点は以下の3つに分類される。

  1. $c$が$f$の除去可能特異点であるとは主要部が$0$であることをいう。
  2. $c$が$f$のであるとは主要部が有限級数であることをいう。係数$a_{-n}$はある$k$よりも大きい全ての$n$で$a_{-n}=0$かつ$a_{-k}\neq 0$となるが、その時$c$を位数$k$の極と呼ぶ。
  3. $c$が$f$の真性特異点であるとは主要部が無限級数であることをいう。

これで一通りの定義が終わりました。2つほど具体例を見てみましょう。

例1 $e^z=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{z^n}{n!}$は$e^z$のテイラー展開ですが、主要部が$0$のローラン展開にもなっています。特異点はありません。

例2 $f(z)=\begin{cases}
-1 & z=0 \\
z^2 & z\neq 0
\end{cases}$は$z=0$で不連続であり特異点を持ちます。また$z=0$の周りで$f(z)=z^2$とローラン展開できます。この時主要部は$0$なので除去可能特異点です。実際$f(0)$の値を$-1$から$0$に直せば$f$は$\mathbb{C}$で正則になり特異点は除去されました。

例3 $f(z)=\frac1{(z-1)}$は$z=1$で定義されないので特異点を持ちます。この式自体がローラン展開になっていて主要部は$\frac1{(z-1)}$という有限級数です。$a_{-1}=1$かつ$1$よりも大きい全ての$n$で$a_{-n}=0$なので$z=-1$は位数$1$の極です。

 

例1〜3はローラン展開がとても簡素なものになっています。そのため特異点も簡単に分類できました。

 

次回は留数定理と有理関数の積分計算をサクッと見てみる予定です。