Maxima で綴る数学の旅

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-数学- 複素関数論(9) 一致の定理と解析接続

ここまでの知識を使って「一致の定理」と「解析接続の定義」を述べることが出来ます。Wikipediaによれば一致の定理には2つの形があると書いてあり、本当にその通りです。解析概論と名古屋大学の柳田さんの講義資料がそれぞれの形で書いてあります。

 

一致の定理(解析概論):領域$K$において関数$f(z), g(z)$が正則で、$K$内の小領域$K_0$( あるいは$K$に集積点を持つ$K$の部分集合$K_0$)で$f(z)=g(z)$であれば、$K$で常に$f(z)=g(z)$である。

一致の定理(柳田さん講義資料):$f$を領域$K$上の正則関数として、$K$に集積点を持つ相異なる点の列$\{ z_k\}_{k\ge 1}\subset K$が存在して全ての$k$で$f(z_k)=0$であれば$f$は$K$で恒等的に$0$である。

確かに上から下も下から上も$f(z)-g(z)$を考えれば自明ですね。

 

ここまでくると解析接続を定義してその一意性について述べることが出来ます。

解析接続の定義とその一意性:領域$K_0$で正則な関数$f$に対して、$K_0$を含む領域$K$で定義された正則な関数で$K_0$の任意の点で$f$に一致するものが存在すれば、一致の定理によりそれはただ1つに定まる。領域$K_0$を含む領域$K$で定まるこの正則関数を$f$の領域$K$への解析接続と呼ぶ。

 

 

柳田さん講義資料(とWikipedia)をベースにして一致の定理を証明してみましょう。流れは、(1) $\{ z_k\}_{k\ge 1}$の集積点を$c$として$f(z)$を$c$を中心とした$K$に含まれる開円板を考えるとその円の中で$f(z)$は正則なので$c$を中心として冪級数展開できます、(2)その開円板の中で$f(z)=0$を示します、(3)$K$に含まれる$f(z)$の零点集合(それは(2)から空ではない)は$K$に一致することを示します。

(1) 前回勉強したように、$f(z)$は領域$K$で正則かつ集積点$c$は$K$の点なので、その周りで次のようにテイラー展開できます。

$$\tag{A}f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n(z-c)^n$$

(2) 示したいことはこの開円板の中で$f(z)=0$、すなわち$a_n=0$です。背理法を使います。$a_n\neq 0$となる$n$があったと仮定して矛盾を導きます。仮定を満たす$n$で最小のものを$N$とします。$\forall n\lt N, a_n=0$でかつ$a_N\neq 0$です。その時(A)は

$$\tag{B}f(z)=\sum_{n=N}^{\infty}a_n(z-c)^n=\sum_{n=0}^{\infty}a_{n+N}(z-c)^N(z-c)^n$$ $$=(z-c)^N\sum_{n=0}^{\infty}a_{n+N}(z-c)^n$$

最後の等号の右辺の総和記号の部分を下記のように$h(z)$と定義します。

$$\tag{C}f(z)=(z-c)^N\,h(z), h(z)=\sum_{n=0}^{\infty}a_{n+N}(z-c)^n$$

$h(z)$について矛盾を導きます。まず$h(z)$は冪級数なので正則で収束円は$f(z)$のそれと同じ、そして$h(c)=a_N\neq 0$です。$h(z)$は連続なので$c$の近傍の全ての点$z$で$h(z)\neq 0$となるような近傍があります。一方全ての$k$について$f(z_k)=0$より$(z_k-c)^N\neq 0$に注意すると$h(z_k)=0$となります。$c$は$\{ z_k\}_{k\ge 1}$の集積点でしたから$c$のどんな近傍にも$\{z_k\}_{k\ge 1}$の点が1つは入りその$z_k$で$h(z_k)=0$です

太字の部分は矛盾していますから$K$に含まれる中心$c$の収束円で$f(z)=0$が成り立ちます。

 

(3) 最後に$K$に含まれる$f(z)$の零点集合$Z=\{z\in K | f(z)=0\}$は$K$に一致することを示します。(2)から$Z\neq\varnothing$。また$U$を$Z$の内部とすると同様に$U\neq\varnothing$かつ定義から$U$は$K$で開集合です。ところが$U$の点列$\{ u_k\}_{k\ge 1}$で$K$で集積点$u$を持つものを考えると、全ての$k$で$f(u_k)=0$と$f$の連続性から$f(u)=0$、従って(1), (2)の議論から$u$を中心とした開円板$D\subset K$があって$D$上で$f$は$0$になりよって$u\in Z$です。$D$には$Z$の外点は含まれませんから$u$は$Z$の境界点ではなくよって$u$は$Z$の内点です。つまり$u\in U$。これは$U$が$K$で閉集合であることを意味します。つまり$U$は$K$で開集合かつ閉集合です。$K$の部分集合で開集合かつ閉集合であるのは$K$か$\varnothing$ですが、$U\neq\varnothing$でしたから$U=K$となります。$U\subset Z\subset K$でしたからこれで$Z=K$も言えました。

Q.E.D.

 

これで正則関数に関する勉強は一旦終了です。いよいよ正則ではない点(特異点ですね)の勉強に進みます。