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-数学- 複素関数論(6) コーシーの積分表示(公式)と正則関数の冪級数展開


コーシーの積分公式を使うことで、正則関数が冪級数に展開できることを示すことができます。今回も主に解析概論を参考にしています。

定理の述べ方が色々あり、なぜそうしているのかを考えてみました。あっているかはわかりませんが、今回はその辺を書いてみます。

 

その解析概論の58.  コーシーの積分公式.解析関数のテイラー展開ではこの定理は次のように述べられています。

定理54:解析関数は,それが正則な領域内の任意の点においてテイラー級数に展開される。

(解析関数は正則な関数と同義で、1回微分可能の意味。冪級数展開とテイラー展開も同じ意味)。

見ればわかるとおりこの定理そのものでは冪級数の係数、定義域(収束円)などについては何も述べておらず、あたかも存在定理のような雰囲気です。係数やその条件は証明の冒頭で述べられています。そこまで含めて定理の形で書くと以下のようになります。

定理54(すごく複雑):関数$f$が領域$K$で正則とする。$K$内の任意の点$a\in K$を中心として領域$K$の最も近い境界点を通る円を$K_0$、その半径を$r_0$とする。この円の中の任意の点を$\zeta$とすると、 $| \zeta - a | = \rho $として中心$a$, 半径$r, (\rho \lt r\lt r_0)$の円周$c$を考える。この時$f$は$\zeta$で以下のようにテイラー級数に展開される。

$$f(\zeta)=\sum_{n=0}^{\infty}a_n\,(\zeta -a)^n, |\zeta -a| \lt r, a_n=\frac1{2\,\pi\,i} \int_{c} \frac{f(z)}{(z-a)^{n+1}} dz$$

参考にしている名古屋大学明治大学の講義資料ではもう少し簡単ではありますが、同じような感じで条件を提示して、展開の形を含めた定理になっています。

最初の形と比べると非常に複雑です。なんで円周を二重に考えるのか悩みました。円$K_0$の円周で積分して、その円周の内側を収束円とすれば良いじゃないか、、、と思いませんか。でもダメなんです。この定義だと領域$K$の境界を円周が通る時、開円板は$K$に含まれますが、円周上の1点(まさに通過点)は領域$K$に含まれません。従ってこの円周は$K$内の積分路としては失格なわけです。そこでその中にもう1つ少し小さな円を考えればその円周まで$K$に含まれるので、積分路としても収束円としても使えます。

こう考えると外側の円について、その閉包(従って円周も)が$K$に含まれるとすれば円が1つで済みそうです。実際、名古屋大学明治大学の講義資料ではそうなっていて上記よりはその分簡単になっています。

実際の証明では$K_0, r_0$は使いません。それらを除いて簡略化した状況を図にするとこうなります。

この定理の証明は次回に行います。

 

 

この定理から色々重要なことがわかります。その際たるものが、「正則関数は何回でも微分できる」です。定理の形で書くと、

定理55:関数$f(z)$が領域$K$で正則であれば領域$K$で各階の導関数$f^{(n)}(z)$が存在してそれらは$K$において正則である。

定理54と以下の記事:

 

maxima.hatenablog.jp

の内容を組み合わせれば定理55は自明です。また定理54(すごく複雑)で示した冪級数の形と微分を繰り返して求めるテイラー展開の係数を見比べれば各階の導関数を以下のように具体的に求めることができます。

$$f^{(n)}(a)=\frac{n!}{2\pi i}\int_c\frac{f(z)dz}{\left(z-a\right)^{n+1}}$$