Maxima で綴る数学の旅

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-数学- 複素関数論(5) コーシーの積分表示(積分公式)

複素関数論の入り口で最も重要な定理と言われているコーシーの積分表示です。ある領域で正則な関数を積分を使って表示する方法を学びます。今回はその証明まで述べます。重要な応用は次回とします。

コーシーの積分表示(積分公式):単純閉曲線$C$の内部及び周上で$f$が正則で$a$が$C$の内部の任意の点ならば

$$f(a)=\frac1{2\,\pi\,i}\int_{C}\frac{f(z)}{z-a} dz$$

証明してみましょう。そのために$a$を中心とした半径$R\gt 0$の円を描き、その円周を$C'$、開円板を$D$とします。この状況を絵にするとこんな感じです。

前回のコーシーの積分定理の拡張によれば図の$C$と$C'$の間では$f$は正則ですから

$$\int_{C}\frac{f(z)}{z-a} dz=\int_{C'}\frac{f(z)}{z-a} dz$$

です。この積分の値は$R$を小さくしても変わりません。そこで任意の正の実数$\epsilon\gt 0$に対して$R$を十分に小さく取れば、$C$での$f$の連続性から$\forall z\in C', |f(z)-f(a)|\lt \epsilon$($z$は円周$C'$上の点)となるように出来ます。すると、

$$\tag{A} \int_{C'}\frac{f(z)}{z-a} dz=f(a)\,\int_{C'}\frac1{z-a} dz+\int_{C'}\frac{f(z)-f(a)}{z-a} dz $$ $$=2\,\pi\,i\,f(a)+\int_{C'}\frac{f(z)-f(a)}{z-a} dz$$

ただし2番目の等号は前回積分定理が成り立たない場合として紹介した計算結果($\int_C \frac1{z-a} dz=2\pi\,i$)を使っています。

次に後ろの積分を評価します。積分の絶対値は絶対値の積分以下であることを使います。

$$\left| \int_{C'}\frac{f(z)-f(a)}{z-a} dz \right| \le \int_{C'}\left| \frac{f(z)-f(a)}{z-a} \right|   dz \le \int_{C'} \frac{ \left| f(z)-f(a)\right|  }{\left| z-a \right|  } dz $$ $$ =  \int_{C'} \frac{ \left| f(z)-f(a)\right|  }{R} dz \le \int_{C'} \frac{\epsilon}{R} dz = 2\pi\,\epsilon$$

これが任意の正の実数$\epsilon$に成り立つためには最初の積分の絶対値、従って積分の値そのものはゼロでなければなりません。式(A)と組み合わせると次式を得ます。

$$\int_{C'}\frac{f(z)}{z-a} dz=2\,\pi\,i\,f(a)$$

両辺を$2\,\pi\,i$で割って定理を得ます。

Q.E.D.