この記事では最も簡単なシンギュラーモジュリ\(x_2\)を求めてみます。この値は前回の記事で求めた式
$$\frac{2}{\pi}=\sum_{k=0}^{\infty}(-1)^k\,A_k\,(4\,k+1), ただしA_k=\frac{\left( \frac12\right)_k^3}{k!^3}$$
でも使いました。
シンギュラーモジュリ\(x_2\)を求めるにあたりもう一度その定義を復習しておきましょう。アイゼンシュタイン級数の議論では一貫して次のような記号を定義して使ってきました。
$$q=e^{-y}, f(-q)=\prod_{n=1}^{\infty}(1-q^n), z= {}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;x), y=\pi\,\frac{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;1-x)}{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;x)}$$
従って\(q=exp(-\pi\,\frac{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;1-x)}{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;x)})\)です。
アイゼンシュタイン級数の議論の最後に\(q=e^{-\pi\,\sqrt{n}}\)の場合を考えてそのときの\(x\)の値を\(x_n\)と表記しました。この\(x_n\)がシンギュラーモジュリです。\(q\)の定義と併せて考えると\(e^{-\pi\,\sqrt{n}}=exp(-\pi\,\sqrt{n})=exp(-\pi\,\frac{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;1-x)}{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;x)})\)、すなわち
$$\frac{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;1-x)}{{}_{2}F_{1}(\frac12,\frac12;1;x)}=\sqrt{n}$$
が成り立つ必要があります。楕円積分と超幾何関数の関係式
$$K(k)=\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\frac{1}{\sqrt{1-k^2\,\sin ^2\vartheta}}\;d\vartheta}=\frac{\pi}{2}\,{}_2F_1\left( \left. \begin{array}{c}\frac{1}{2},\;\frac{1}{2}\\1\end{array} \right |,k^2\right)$$
を使うと超幾何関数の商は楕円積分の商として次のように書くことができます。
$$\frac{K(\sqrt{1-k^2})}{K(k)}=\sqrt{n}$$
\(k\)はこの楕円積分の母数であり\(\sqrt{1-k^2}=k^{\prime}\)は\(k\)の補母数です。\(K^{\prime}(k)=K(k^{\prime})\)と定義すると、先ほどの式は以下のようになります。
$$\frac{K^{\prime}(k)}{K(k)}=\sqrt{n}$$
この式を満たす\(k\)を求めればその2乗が\(n\)次のシンギュラーモジュリ\(x_n\)です。
以下のjupyter labのセッションではMARK B. VILLARINOさんの論文[math/0308028] Ramanujan's Most Singular Modulusを参照しながら\(n=2\)の場合の\(x_2\)を計算してみました。