ラマヌジャン型の円周率公式の証明を理解する上で、\(q\)級数、超幾何関数、楕円積分、テータ関数、アイゼンシュタイン級数などをある程度理解しておくことが必要です。このためにとても役に立ったのが、このシリーズでも何度も紹介しているBerndtさんの次の本です。
この本の5章と6章に証明の細かいところまでが書いてあり、非常に勉強になりました。
一方、ちょっと驚いてしまうのですが、この本には円周率公式の話は一切出てきません。小話的に出てきても全くおかしくないのですが、、、
ではこの本はそもそも何について書いてある本なのでしょうか。
- 自然数\(n\)を自然数の和に分割する方法の個数である分割数\(p(n)\)とその合同関係式
- ラマヌジャンのタウ関数\(\tau(n)\)とその合同関係式
- 自然数\(n\)を2つの平方数の和で表す方法の個数\(r_2(n)\)
- 自然数\(n\)を4つの平方数の和で表す方法の個数\(r_4(n)\)
- 自然数\(n\)を8つの平方数の和で表す方法の個数\(r_8(n)\)
などについて書かれています。これらはラマヌジャンも自身のノートブックの中でよく研究していたテーマのようです。これらを議論する道具立てとして\(q\)級数、テータ関数などが使われています。さらに進んだ議論のため超幾何関数、楕円積分、アイゼンシュタイン級数が使われています。次のような公式の意味や証明をきちんと知りたければこの本は本当におすすめです。
$$p(5\,n+4)\equiv0 (mod 5),\, \tau(5\,n)\equiv0(mod 5)$$
$$ r_2(n)=4\,\sum_{d\mid n,\: d\, odd}(-1)^{\frac{d-1}{2}},\; r_4(n)=8\,\sum_{d\mid n,\, 4 \nmid d}d,\; r_8(n)=16\,(-1)^n\,\sum_{d\mid n}(-1)^d\,d^3$$
一方多くのラマヌジャン型円周率公式の論文では、次のような定義や公式が当たり前のように使われます。これらを前提知識として提示した上で論文の議論が始まるため、初めてその手の論文(Nayandeepさんの論文もそうですが)を読み始めるとここで躓きます。
$$\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}{\frac{1}{\sqrt{1-k^2\,\sin ^2\vartheta}}\;d\vartheta}=\frac{\pi}{2}\,{}_2F_1\left(\frac12,\;\frac12;1;k^2\right)$$
$$x=k^2$$
$$\varphi(q)=\sum_{n=-\infty}^{\infty}q^{n^2}$$
$$\varphi(q)^2=z={}_2F_1(\frac12,\frac12;1;x)$$
$$q=e^{-y}=exp\left(-\pi\,\frac{{}_2F_1\left(\frac12,\frac12;1;1-x\right)}{{}_2F_1\left(\frac12,\frac12;1;x\right)}\right)$$
そのためにもNumber Theory in the Spirit of Ramanujanの第5章、6章は肩慣らしになるのではないかと思います。