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-数学- 複素関数論 補足 リュービルの定理と代数学の基本定理

この記事では複素関数論の応用として代数学の基本定理を証明します。この辺の話は勉強していて興味深い話だったのですが、今回の予定のストーリーからは横道に逸れる感じだったので、補足として今回記事にすることにしました。

リュービルの定理は以前に楕円関数の性質の証明で使ったこともあり、その証明がきっちりと数式で示せる事を知り楽しかったです。

代数学の基本定理定数を除く複素数係数の1変数代数方程式は複素根を持つ。

この証明に使う次の定理も証明します。

リュービルの定理:有界な整関数は定数関数に限る。

この証明に使うコーシーの不等式も証明します。

 

コーシーの不等式:$D$を中心$z$、半径$R$の開円板、$\overline{D}$をその閉円板とし、$f$を$\overline{D}$を含むある開集合で正則な関数とする。また$C$を$D$の円周で正の向きを持つとする。このとき、任意の自然数$n$について

$$|f^{(n)}(z)|\le \frac{n!\cdot sup_{w\in C}|f(w)|}{R^n}$$

特に$n=1$の場合、

$$|f'(z)|\le \frac{sup_{w\in C}|f(w)|}{R}$$

 

まずはコーシーの不等式の証明から始めます。

 

上記記事の最後に正則関数の$n$回微分積分で表しました。再掲すると

$$f^{(n)}(a)=\frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(z)dz}{\left(z-a\right)^{n+1}}$$

 ここからガシガシ計算します。

$$|f^{(n)}(z)|=\left|\frac{n!}{2\pi i}\int_C\frac{f(w)dw}{\left(w-z\right)^{n+1}}\right|=\frac{n!}{2\pi}\left|\int_C\frac{f(w)dw}{i\cdot\left(w-z\right)^{n+1}}\right|$$

$w=z+Re^{i\theta}, \theta:0\to2\pi$と置換すると$dw=Rie^{i\theta}\,d\theta$なので

$$=\frac{n!}{2\pi}\left|\int_0^{2\pi}\frac{f(z+Re^{i\theta})Rie^{i\theta}}{i\cdot\left(Re^{i\theta}\right)^{n+1}}d\theta\right|=\frac{n!}{2\pi}\left|\int_0^{2\pi}\frac{f(z+Re^{i\theta})}{\left(Re^{i\theta}\right)^n}d\theta\right|$$ $$ \le \frac{n!}{2\pi}\int_0^{2\pi}\frac{|f(z+Re^{i\theta})|}{|\left(Re^{i\theta}\right)^n|}d\theta \le \frac{n!}{2\pi}\int_0^{2\pi}\frac{sup_{w\in C}|f(w)|}{R^n}d\theta $$ $$= \frac{n!}{2\pi} \cdot \frac{2\pi sup_{w\in C}|f(w)|}{R^n}=\frac{n! \,sup_{w\in C}|f(w)|}{R^n}$$

Q.E.D.

 

リュービルの定理:有界な整関数は定数関数に限る。

では早速コーシーの不等式を使ってリュービルの定理を証明しましょう。$f(z)$を有界な整関数とします。まず任意の$z\in\mathbb{C}$について$f'(z)=0$を証明します。有界なので任意の$z$に対して$|f(z)|\le B$である$B\in\mathbb{R}$が存在し、当然$sup_{w\in C}|f(w)| \le B$です。すると$n=1$の場合のコーシーの不等式から、$|f'(z)|\le\frac{B}{R}$。$f$が整関数なので$R$はいくらでも大きくて良いので$|f'(z)|=0$、つまり$f'(z)=0$が示せました。

次に$f(z)=$定数を示します。仮定より$f$は領域$\mathbb{C}$で正則ですから任意の2点$w,w'\in\mathbb{C}$についてそれらを始点・終点とする区分的に滑らかな曲線$C$が存在して$\int_C f'(z)dz=f(w')-f(w)$となります。左辺は$f'(z)=0$から$0$、従って$f(w')=f(w)$がわかりました。

Q.E.D.

 

代数学の基本定理定数を除く複素数係数の1変数代数方程式は複素根を持つ。

定数を除く複素係数の$n$次1変数代数方程式とは$f(z)=\sum_{k=0}^n c_k\cdot z^k,c_n\neq0, c_k\in\mathbb{C}$に対して$f(z)=0$をいいます。複素根を持つとは$f$に零点がある事を意味します。背理法を使います。$f$に零点がないと仮定します。すると$z\neq 0$では$\frac{f(z)}{z^n}=c_n+(\frac{c_{n-1}}{z}+\cdots +\frac{c_0}{z^n})$、従って$\lim_{|z|\to\infty}\frac{f(z)}{z^n}=c_n$です。両辺の絶対値を取ると$\lim_{|z|\to\infty}\left|\frac{f(z)}{z^n}\right|=|c_n|$です。つまり$|c_n|$より小さい適当な正の数$c, 0\le c \le |c_n|$に対してある正の実数$R$が存在して、$|z|\ge R$ならば$\left|\frac{f(z)}{z^n}\right| \ge |c|$とできます。両辺の逆数を取ると$\left|\frac{z^n}{f(z)}\right| \le \frac1{|c|}$なので

$$\frac1{|f(z)|} \le \frac1{|c|\cdot |z^n|} \le \frac1{|c|\cdot R^n}$$

従って$\frac1{f(z)}$は開集合$|z|\gt R$で有界です。

一方、有界閉集合$|z|\le R$上では$f(z)$は連続(なぜなら正則)でかつ零点がありません。従って$\frac1{f(z)}$は正則従って連続でかつ極がないので有界です。両方まとめると$\frac1{f(z)}$は$\mathbb{C}$で有界な正則関数となり、リュービルの定理が適用できて定数関数となります。これは定理の仮定の一部である「定数を除く」に反しますからよって背理法の仮定は誤りであり$f$には零点があります。

Q.E.D.