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-数学- 複素関数論(12) 有理型関数

ついに有理型関数の定義を理解するところまでやってきました。嬉しいことです。ただその前に有理関数を述べたいと思います。有理関数は複素数係数の多項式の商であるような関数です。$P(z),Q(z)$を複素係数の多項式として$f(z)=\frac{P(z)}{Q(z)}$ならば$f:\{z\in\mathbb{C} | Q(z)\neq 0\}\to \mathbb{C}$は有理関数です。

有理型関数は有理関数の定義の多項式を正則関数に置き換えたものになります。しかし定義はちょっと違った形で与えられます。

有理型関数の定義:関数$f$が開集合$U\subset \mathbb{C}$上有理型であるとは、$U$に集積点を持たない点列$\{z_n\}_{n\in\mathbb{N}}$で以下の2つの条件を満たすものが存在することをいう。

  1. $f$は$U-\{z_n\}_{n\in\mathbb{N}}$で正則。
  2. $f$は各$z_n\, (n\in\mathbb{N})$を極にもつ。

大雑把に言えば$U$の中で極(それは孤立特異点です)をもち極以外では正則な関数を有理型関数と定義しています。定義から点列の添え字は加算無限なのですが、点列としては有限個の場合を許していると理解しています(この定義では必ず孤立特異点は無限個必要なのかと最初はちょっと悩みました)。

有理関数は有理型関数です。極は分母の多項式$Q(z)$の零点ですから有限個でその集合に集積点はありません。さらにそれ以外の点では正則ですから有理型関数の定義を満たします。

極が無限個ある例として$\frac1{\sin(z)}$も有理型関数です。$\sin(z)$の零点以外では$\frac1{\sin(z)}$は微分可能なので正則です。極の集合は$\{\pm n\pi\}_{n\in\mathbb{N}}$で集積点はありません。

有理型関数に対しては前回導入したローラン展開を必ず行うことができます。極が孤立しているのでその周りに他の極が入らない円環領域を定義できます。その円環領域では正則ですからローラン展開が可能な条件を満たします。上記の$\frac1{\sin(z)}$を極$0$の周りでローラン展開すると次のようになります。

$$\frac1{\sin(z)}=\frac{1}{z}+\frac{z}{6}+\frac{7\,z^3}{360}+\frac{31\,z^5}{15120}+\frac{127\,z^7}{604800}+\frac{73\,z^9}{3421440}+\cdots$$

$\tan(z)$も有理型関数です。極の集合は$\{\pm \frac{n\pi}{2}\}_{n\in\mathbb{N}}$で集積点はありません。正則点$0$の周りのテイラー展開は、

$$\tan(z)=z+\frac{z^3}{3}+\frac{2\,z^5}{15}+\frac{17\,z^7}{315}+\frac{62\,z^9}{2835}+\cdots$$

なのですが、極$\frac{\pi}{2}$でのローラン展開は次のとおりです。

$$\tan(z)=\frac{-\pi+2\,z}{6}-\frac{2}{-\pi+2\,z}+\frac{\left(-\pi+2\,z\right)^3}{360}+\frac{\left(-\pi+2\,z\right)^5}{15120}+\frac{\left(-\pi+2\,z\right)^7}{604800}+\frac{\left(-\pi+2\,z\right)^9}{23950080}+\cdots$$