まずはともあれ微分と正則関数です。
微分と正則の定義:複素数の集合を$\mathbb{C}$とする。$\mathbb{C}$の開部分集合$U$上の関数$f$が$U$の点$z$で微分可能である、とは極限
$$\lim_{h \to 0}\frac{f(z+h)-f(z)}{h}$$
が存在することを言う。この時
$$f'(z)=\lim_{h \to 0}\frac{f(z+h)-f(z)}{h}$$
と書き、$f$の$z$における微分という。
$U$の全ての点で微分可能である時、関数$f$は$U$で正則である、という。
関数$f$が$U$のある点$z$のある近傍で正則である時、関数$f$は$U$の点$z$で正則である、という。
大雑把には1回微分できる関数を正則関数と呼びます。$\mathbb{C}$で正則な関数のわかりやすい例として、多項式関数、三角関数、指数関数などがあります(いずれも複素関数として$\mathbb{C}$の任意の点で1回は微分できます)。ちなみに$\mathbb{C}$で正則な関数を整関数とも呼びます。
別の例として$\frac1{z}$は$\mathbb{C}-\{0\}$で正則な関数です。$\{0\}$以外の任意の点ではその微分は$-\frac1{z^2}$となります。
次に冪級数を定義します。冪級数も正則関数の例になります。まず冪級数、収束円板、収束半径を定義して、与えられた冪級数に対して収束半径が一意に定まることを定理として述べます。
冪級数の定義:複素数列 $a_n\,(n\ge 0, n\in \mathbb{Z})$ を係数とし、中心を$c\in \mathbb{C}$とする冪級数を $a(z)= \sum_{n=0}^{\infty}a_n\,(z-c)^n$で定義する。
収束円板の存在定理:上記の定義の冪級数$a(z)= \sum_{n=0}^{\infty}a_n\,(z-c)^n$に対して、$0\le R \le \infty$なる$R$が存在して、$|z-c| \lt R$ならば$a(z)$は収束し、$|z-c| \gt R$ならば$a(z)$は発散する。
収束円板と収束半径の定義:上記の定義の冪級数と$R$について$\{z\in \mathbb{C}|\, |z-c|\lt R\}$を収束円板、$R$を収束半径という。
1つだけ具体例を考えてみましょう。$a_n\equiv 1 , c=0$とすると次のような冪級数が定ります。
$$ \sum_{n=0}^{\infty}z^n = 1 + z + z^2+ z^3+ \cdots$$
この冪級数は$z$が実数を動く場合に$|z|\lt 1$で収束することが知られていますが、同様に$z$が複素数を動く場合にも$|z|\lt 1$で収束することが分かります。また$|z|\gt 1$では発散します。これらから収束半径は$1$で収束円板は$0$を中心とする半径$1$の円であることが分かります。
複素数を係数とする冪級数はその収束円板上で正則関数を定義します。正則であることを示すには微分できることを示せば良いです。
項別微分の可能性定理: 冪級数 $a(z) = \sum_{n=0}^{\infty}a_n\,(z-c)^n$はその収束円板上で正則関数$a(z)$を定める。そして収束円板での$a(z)$の微分は次の冪級数で与えられる。
$a'(z) = \sum_{n=0}^{\infty}n\,a_n\,(z-c)^{n-1}$
この冪級数の収束半径は$a(z)$の収束半径と等しい。
例として冪級数$ \sum_{n=0}^{\infty}z^n = 1 + z + z^2+ z^3+ \cdots$はその収束円板で正則関数を定めます。その微分は
$$ \sum_{n=0}^{\infty}n\,z^{(n-1)} = 1 + 2\,z + 3\,z^2+ 4\,z^3+ \cdots$$
この定理を繰り返し適用することで、冪級数は何回でも微分することができ、それらの収束半径は元の冪級数と変わらないことが分かりました。そしてそれらは全て収束円板で正則関数です。
実はこの逆が成り立つ、というのが複素関数の最初の面白い点だと思います。つまり正則関数は冪級数に展開できる!ところがそのことをきちんと理解するためには複素積分の勉強が必要です。
次回は複素積分、コーシーの積分定理、積分表示を勉強し、それらを用いて与えられた正則関数の冪級数を求めてみたいと思います。