Maxima で綴る数学の旅

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-数学- 有限体のガウス和による平方剰余の相互法則の証明(8)

いよいよ山本先生の本数論入門 (現代数学への入門)による相互法則の証明を見ていきます。有限体$F_p$におけるフロべニウス写像ガウス和を用いた証明です。今回はいくつかの補助定理を紹介し、それらを使った相互法則の証明を紹介します。それぞれの補助定理の証明は次回以降にしましょう。

 

まずは平方剰余の相互法則を再掲します。

命題4.9 相互法則  

$p,q$を奇素数とします。
$$\left(\frac{q}{p}\right)\,\left(\frac{p}{q}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\,\frac{q-1}{2}}=\begin{cases}
1 & p\equiv 1\,(mod 4)\,or\, q\equiv 1\,(mod\,4)\\
-1 & p\equiv q\equiv 3\,(mod\,4)
\end{cases}$$  

 

命題4.11  

$p,q$を奇素数とします。
$q^{\ast}$を$q^{\ast}=\left(\frac{-1}{q}\right)\,q=\begin{cases}
q & q\equiv 1\,(mod 4)\\
-q & q\equiv 3\,(mod\,4)
\end{cases}$と定義すると、
$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=\left(\frac{p}{q}\right)$$

命題4.9と命題4.11は同値です。この記事では命題4.11を証明することにします。命題4.11で定義した$q^{\ast}$が以下の補助定理で登場しますが、$q^{\ast}$の定義は命題4.11を参照して下さい。

補助定理の紹介の前に1つだけとても大事な概念を導入します。ガウス和です!

定義 ガウス
$p,q$を相異なる奇素数、有限体$F_p$上で$1$の原始$q$乗根の1つを$\zeta$とするとき、法$q$に関する平方剰余記号の値を係数とする$\zeta$のベキ和を
$$ G_q=\sum_{a=1}^{q-1}\left( \frac{a}{q} \right)\zeta^a $$
とします。このような形の和をガウス和と呼びます。

注意:$1$の原始$q$乗根は有限体$F_p$に入るとは限りません(というかほとんど入りません)。上記の定義および以下の議論は$F_p$に$1$の原始$q$乗根を添加した拡大体(これも$F_p$を素体とする有限体です)で考えることにします。

よく見かけるガウス和の定義は$1$の原始$q$乗根を複素数$e^{\frac{2\pi i}{q}}$として上記の式を考えます。ここでは有限体で考えているので有限体の道具が使えます。例えば$(a+b)^p=a^p+b^p$でした。これを使うと$G_q^p=\sum_{a=1}^{q-1}\left( \frac{a}{q} \right)^p\zeta^{p a} $と計算できてしまいます。便利すぎです。

では重要な補助定理を3つ紹介します。

命題4.14 (再掲)

$p$を奇素数、$F_p$を位数$p$の有限体とし、その任意の元$a\in F_p$に対して方程式$X^2-a=0$の解を$\sqrt{a}$と書くことにします。$\sqrt{a}$は$F_p$の元ではないかもしれませんが、$F_p$の拡大$F_p(\sqrt{a})$の元ではあります。この時次の式が成り立ちます。

$$\sqrt{a}^p=\left(\frac{a}{p}\right)\sqrt{a}$$

 

命題4.16

$p,q$を相異なる奇素数、有限体$F_p$上で$1$の原始$q$乗根から上記の定義で作られるガウス和を$G_q$とすると、次の式が成り立ちます。
$$G_q^2=q^{\ast}=\left( \frac{-1}{q} \right)\,q= \begin{cases}
q & (q \equiv 1\,(mod\,4))\\
-q & (q \equiv 3\,(mod\,4)
\end{cases}$$

ここからすぐに以下がわかります。

$$G_q=\pm \sqrt{q^{\ast}} ただし符号はこの情報だけでは決まりません$$

 

命題4.19

$p,q$を相異なる奇素数、有限体$F_p$上で$1$の原始$q$乗根から上記の定義で作られるガウス和を$G_q$とすると、
$$G_q^p=\left(\frac{p}{q}\right)\,G_q$$

命題4.14は以前の記事で証明済みです:

-数学- 有限体のガウス和による平方剰余の相互法則の証明 (5) フロべニウス写像と平方剰余 - Maxima で綴る数学の旅

 

命題4.16と4.19は次回以降に証明します。ここではそれらを仮定して命題4.11の証明に進みます。

証明の方針流れは以下のとおりです。

$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=1 \iff \sqrt{q^{\ast}}^p=\sqrt{q^{\ast}} \iff G_q^p=G_q \iff \left(\frac{p}{q}\right)=1$$

$q^{\ast}$が平方剰余である条件をフロべニウスで詰めていきそれをガウス和に変換し、命題4.19で$mod\, q$の話に落とし込む感じです。

命題4.11  

$p,q$を奇素数とします。
$q^{\ast}$を$q^{\ast}=\left(\frac{-1}{q}\right)\,q=\begin{cases}
q & q\equiv 1\,(mod 4)\\
-q & q\equiv 3\,(mod\,4)
\end{cases}$と定義すると、
$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=\left(\frac{p}{q}\right)$$

 

証明

標数$p$の体の中で$1$の原始$q$乗根の1つを$\zeta$とし、そのガウス和を$G_q$とします。
命題4.14$\sqrt{a}^p=\left(\frac{a}{p}\right)\sqrt{a}$から$\sqrt{a}^{p-1}=\left(\frac{a}{p}\right)$です。従って$a$に$q^{\ast}$を代入すると、
$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=\sqrt{q^{\ast}}^{p-1}$$
命題4.16より$\pm\sqrt{q^{\ast}}=G_q$。$p-1$が偶数であることから$\sqrt{q^{\ast}}^{p-1}=G_q^{p-1}$がわかります。
$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=\sqrt{q^{\ast}}^{p-1}=G_q^{p-1}$$
最後に命題4.19より$G_q^{p-1}=\left(\frac{p}{q}\right)$を使います。
$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=\sqrt{q^{\ast}}^{p-1}=G_q^{p-1}=\left(\frac{p}{q}\right)$$

Q.E.D.

見事に有限体$F_p$の拡大体上の議論だけで命題4.11を証明することができました。一方証明だけ見ていると$p-1$乗の等式変形なので意味が分かりにくいと感じました。その意味を考えてみたのが、以下の証明の流れでした。

$$\left(\frac{q^{\ast}}{p}\right)=1 \iff \sqrt{q^{\ast}}^p=\sqrt{q^{\ast}} \iff G_q^p=G_q \iff \left(\frac{p}{q}\right)=1$$

これならフロべニウスが明示的になるので意味は明瞭に感じられます。

 

次回は補助定理の証明を与えることにします。