Maxima で綴る数学の旅

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-数学- 有限体のガウス和による平方剰余の相互法則の証明(2) 有限体入門

駆け足で有限体を復習しましょう。

定義 有限体\(F_p\)

整数をある素数\(p\)で割った余りの集合\(\{0,1,\cdots,p-1\}\)には整数の加算や乗算の結果を\(p\)で割った余りとして自然に加算、乗算が定義でき、それらの単位元は\(0,1\)です。また全ての元に対して加算の逆元があり、\(0\)を除く全ての元に対して乗算の逆元があります。従って\(\{0,1,\cdots,p-1\}\)は体になります。この集合は要素数\(p\)の有限体であり記号\(F_p\)で表します。

具体的に\(p=3\)の有限体を例として考えてみましょう。\(F_3=\{0,1,2\}\)です。加算は

$$0+0=0,\, 0+1=1,\, 0+2=2,\, 1+1=2,\, 1+2=3=0,\, 2+2=4=1$$

です。乗算は

$$1\cdot 1=1,\, 1\cdot 2=2,\, 2\cdot 2=4=1$$

です。乗算の逆元を肩に\({}^{-1}\)をつけて表すことにすると、\(1^{-1}=1, 2^{-1}=2\)となり確かに\(0\)以外の元に逆元があることがわかり、\(F_3\)は体であることが分かりました。

定義 \(p\)を素数として有限体\(F_p\)の拡大体\(F_{p^f}\)

有限体\(F_p\)に\(F_p\)の規約な方程式の根を1つ付け加えると\(F_p\)の拡大体を構成できます。その時拡大体の要素の個数は適当な自然数\(f\)をとって\(p^f\)となることが分かります。この体を記号\(F_{p^f}\)で表します。

\(F_{p^f}\)は必ず部分体として\(F_p\)を含みます。このとき\(F_p\)を\(F_{p^f}\)の素体と呼びます。また\(F_{p^f}\)に対して数\(p\)を標数と呼びます。

例えば\(F_3\)の規約な方程式\(X^2-2=0\)の根\(\sqrt{2}\)を\(F_3\)に加えた体\(F_3(\sqrt{2})\)の要素の個数は9個であることが分かります。記号では\(F_{3^2}\)と書きます。

$$F_3(\sqrt{2})=F_{3^2}=\{0,1,2,\sqrt{2},1+\sqrt{2},2+\sqrt{2},2\sqrt{2},1+2\sqrt{2},2+2\sqrt{2}\}$$

これをみると要素数が9になるのは、全ての要素が\(1\)と\(\sqrt{2}\)の線型結合で係数が\(F_3\)の元だからだとわかります。

いくつかの要素の逆元を求めると

$$(1+\sqrt{2})^{-1}=\sqrt{2}+2,\, (1+2\sqrt{2})^{-1}=2+2\sqrt{2}$$

などとなります。

命題3.34 標数素数\(p\)の体\(F\)において任意の\(a,b \in F\)および自然数\(k\)について次式が成り立ちます。

$$(a+b)^p=a^p+b^p, \, (a+b)^{p^k}=a^{p^k}+b^{p^k}$$

証明 前者は\((a+b)^p=\sum_{k=0}^p{\binom{k}{p}}a^p\,b^{p-k}=a^p+b^p+\sum_{k=1}^{p-1}{\binom{k}{p}}a^p\,b^{p-k}\)。ここで\(1 \le k \le p-1\)の時\(\binom{k}{p} \equiv 0 \,(mod\,p)=0 (\in F_p) = 0 (\in F)\)なので総和部分が\(0\)になり、証明されました。後者の式は証明略。

 

命題3.44 体\(K\)の乗法群\(K^{\times}=K-\{0\}\)の有限部分群は巡回群になります。

証明は難しいので省略します。

命題3.44の特別な場合として体\(K\)が有限体\(F_{p^f}\)の場合、乗法群\(F_{p^f}^{\times}\)自身が位数\(p^f-1\)の巡回群になります。\(F_3(\sqrt{2})\)の例では\(0\)を除いた\(F_3(\sqrt{2})^{\times}\)は位数\(3^2-1=8\)の巡回群になり、その生成元として\(1+\sqrt{2}\)を取ることができます。

 

定義 1の\(n\)乗根
体\(K\)の方程式\(X^n-1=0\)の解を1の\(n\)乗根といいます。
\(\zeta\)が\(1\)の\(n\)乗根でかつ\(n\)乗して初めて\(1\)になる時、つまり\(\zeta^k\neq 1, k=1,\cdots,n-1\)の時、\(\zeta\)を\(1\)の原始\(n\)乗根といいます。

1の\(n\)乗根は高々\(n\)個しかありません。

命題3.48 位数\(q\)の有限体\(F\)において、\(x\in F \iff x^q=x\)。同じことだが\(F=\{x|x^q-x=0\}\)

証明 \(F\)は有限体なのでその乗法群\(F^{\times}\)は位数が\(q-1\)の巡回群になります。したがって任意の\(x\in F^{\times}\)について\(x^{q-1}=1\)です。つまり\(F^{\times}\)の任意の元は方程式\(X^{q-1}-1=0\)の解となります。この方程式は高々\(q-1\)個の解しか持たないことより、\(F^{\times}\)は方程式\(X^{q-1}-1=0\)の解全体と一致することになります。\(X=0\)も合わせて考えると\(F\)は方程式\(X^q-X=0\)と一致します。すなわち
$$F=\{x|x^q-x=0\}$$

標数\(p\)の有限体\(F_{p^f}\)において写像\(x\mapsto x^p\)をフロべニウス写像と呼びます。

命題3.48を\(F_{p^f}\)の中の\(F_p\)で考えると次のようなことがわかります。\(F_{p^f}\)の元\(a \in F_{p^f}\)が\(F_p\)の元かどうかは\(a^p=a\)と\(p\)乗すると元に戻るかどうかで判定できます。\(F_3(\sqrt{2})\)の例では\(F_3=\{0,1,2\}\)の元は3乗すると元の値に戻るし、それ以外の元は3乗してもけっして元の値には戻らないのです。

次回は今回勉強した有限体の性質をMaximaを使って試してみましょう。