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-数学- n次方程式のガロア群がn次対称群\(S_n\)の真部分群になるのはどんな時?

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文字係数の\(n\)次方程式のガロア群は\(n\)次対称群\(S_n\)です。一方、ガロア群を求めるプログラムを書いて、具体的な数値を係数としてもつ、色々な方程式を試していると、ガロア群が\(n\)次対称群\(S_n\)になることもあれば、その真部分群になることもあります。係数として与える数値次第で群がガラッと変わるのです。ではガロア群が\(S_n\)の真部分群になるのはどんな場合でしょうか。

 

係数が数値で与えられた方程式のガロア群が\(S_n\)よりも真に小さい、ということは、係数体を固定する分解体の自己同型群に含まれる元(自己同型写像、あるいは根の置換)の数は\(n!\)未満、ということになります。

 

例えば、\(Q\)係数の4次多項式\(x^4-28\,x^2+100\)を考えます。この多項式は4つの解\(\sqrt{2}+2\,\sqrt{3},\, -\sqrt{2}+2\,\sqrt{3},\, \sqrt{2}-2\,\sqrt{3},-\sqrt{2}-2\,\sqrt{3}\)を持ち、その分解体\(E\)は\(E=Q(\sqrt{2},\sqrt{3})\)です。これらの4つの解の置換は、「\(Q(\sqrt{2},\sqrt{3})\)の自己同型写像によって引き起こされる」が制約となり、個数は\(24=4!\)個ではなく、4個になってしまうのです。

 

では具体的に 分解体\(E\)の、係数体\(Q\)を固定する自己同型群を求めてみます。\(Q(\sqrt{2})\)の元は一般に\(a+b\,\sqrt{2}, a, b \in Q\)とかけます。同様に\(E\)の元は一般に、\(c+d\,\sqrt{3}, c,d \in Q(\sqrt{2})\)とかけます。\(c=a_1+a_2\,\sqrt{2}, d=a_3+a_4\,\sqrt{2}, a_1\cdots a_4 \in Q\)とすると、結局\(E\)の元は一般に\(a_1+a_2\,\sqrt{2}+(a_3+a_4\,\sqrt{2})\,\sqrt{3}\)とかけることが分かりました。整理すると、\(a_1+a_2\,\sqrt{2}+a_3\,\sqrt{3}+a_4\,\sqrt{6}\)となります。\(\sigma\in Gal(E/Q)\)を1つとって、\(E\)の元\(x=a_1+a_2\,\sqrt{2}+a_3\,\sqrt{3}+a_4\,\sqrt{6}\)に適用してみます。

$$ \sigma(x)=\sigma(a_1)+\sigma(a_2\,\sqrt{2})+\sigma(a_3\,\sqrt{3})+\sigma(a_4\,\sqrt{6}) \\
=a_1+a_2\,\sigma(\sqrt{2})+a_3\,\sigma(\sqrt{3})+a_4\,\sigma(\sqrt{6}) \\
=a_1+a_2\,\sigma(\sqrt{2})+a_3\,\sigma(\sqrt{3})+a_4\,\sigma(\sqrt{2}\,\sqrt{3})\\
=a_1+a_2\,\sigma(\sqrt{2})+a_3\,\sigma(\sqrt{3})+a_4\,\sigma(\sqrt{2})\,\sigma(\sqrt{3})$$

これで分かることは、\(\sigma(x)\)の行き先は\(\sigma(\sqrt{2})\)\(\sigma(\sqrt{3})\)の行き先で決定される、ということです。それらが決まると自動的に\(\sigma(\sqrt{6})\)の行き先も決まってしまいます。ちょっとした計算で\(\sigma(\sqrt{2})=\pm\sqrt{2}\)であることが分かります。同様にして\(\sigma(\sqrt{3})=\pm\sqrt{3}\)も分かります。

 

具体的な自己同型写像\(\sigma(\sqrt{2})\)の行き先が\(\pm\sqrt{2}\)のどちらになるかという2通りの選択と、\(\sigma(\sqrt{3})\)の行き先が\(\pm\sqrt{3}\)のどちらになるかという2通りの選択、合わせて4通り考えられることが分かります。

 

元の疑問に立ち返って、何が起こっているのでしょうか。与えられた方程式には4つも解がありました。もしそれらの自己同型写像による行き先が全く独立に決められるのであれば、係数体\(Q\)を固定する自己同型写像の個数は\(4!=24\)個あるはずでした。しかし、例として取り上げた\(x^4-28\,x+100\)では、拡大次数が4である拡大体\(E/Q\)で一次式に分解してしまったのです。このためガロア群に含まれる自己同型写像の個数は4つに減ってしまいました。

 

まとめると、方程式の係数に具体的な数値を与えると、小さな拡大体で分解することがあります。その時には自己同型写像の行き先が限定されてしまう、ということが起こり、ガロア群に含まれる自己同型写像の個数が減少します。その場合には方程式のガロア群は\(S_n\)の真部分群になる、ということが分かります。