p進数の絶対値や距離が「非アルキメデス的」とよく言われます。これって何のことなのでしょうか。
非アルキメデス的絶対値の定義や性質は、
のp28-p32に分かりやすい記載があり参考にしました。
この本による絶対値はQ->Rの関数\(\left| \cdot \right|\) で、
\( \left| a\right| \geq 0 \) (等号は\(a=0\)の時だけ成立)
\( \left| a\,b\right| =\left| a\right| \,\left| b\right| \)
\( \notag \left| b+a\right| \leq \left| b\right| +\left| a\right| \)
を満たすものとします。普通の絶対値は確かにこの定義を満たします。
さて、3つ目の条件を
$$ \tag{NA} \left| b+a\right| \leq \mathrm{max}\left(\left| a\right| , \left| b\right| \right) $$
に置き換えたものを非アルキメデス的絶対値と定義します。この(NA)を満たさない絶対値はアルキメデス的絶対値と呼ばれます。
p進絶対値は 非アルキメデス的です。具体的に7進数で計算して確認してみましょう。
(%i35) C:['padic_norm(a+b,7), 'padic_norm(a,7),'padic_norm(b,7)];
$$ \tag{%o35} \left[ \left| b+a \right|_{7} , \left| a \right|_{7} , \left| b \right|_{7} \right] $$
例えばこの式でa=3, b=4の場合、
(%i36) C,a=3,b=4;
$$ \tag{%o36} \left[ \left| 7 \right|_{7} , \left| 3 \right|_{7} , \left| 4 \right|_{7} \right] $$
計算すると、
(%i37) %,nouns;
$$ \tag{%o37} \left[ \frac{1}{7} , 1 , 1 \right] $$
(NA)の左辺は3と4の和の7進絶対値で1/7となりますが、(NA)の右辺は3の7進絶対値、4の7進絶対値はいずれも1となり、最大値は1となります。従って(NA)の不等式が成立していることがわかります。
今度はa=3, b=7としてみましょう。
(%i38) C,a=3,b=7;
$$ \tag{%o38} \left[ \left| 10 \right|_{7} , \left| 3 \right|_{7} , \left| 7 \right|_{7} \right] $$
計算すると、
(%i39) %,nouns;
$$ \tag{%o39} \left[ 1 , 1 , \frac{1}{7} \right] $$
3と7の和の7進絶対値は1, 3の7進絶対値は1, 7の7進絶対値は1/7となり、右辺の最大値は1ですから(NA)の等号が成立している場合となります。
最後にa=b=7の場合です。
(%i40) C,a=7,b=7;
$$ \tag{%o40} \left[ \left| 14 \right|_{7} , \left| 7 \right|_{7} , \left| 7 \right|_{7} \right] $$
(%i41) %,nouns;
$$ \tag{%o41} \left[ \frac{1}{7} , \frac{1}{7} , \frac{1}{7} \right] $$
この場合7+7の7進絶対値は1/7, 7の7進絶対値も1/7となり、(NA)で等号が成立している場合になります。
そもそもアルキメデス的とは何だったのか、最初に示した定義では分かり難いです。Wikipediaの「アルキメデスの性質」という項目があります。
を読んでいただくのが良いのですが、ある量xと別の指定された量cが与えられた時にxをn倍した絶対値がcを超えるような自然数nが必ず取れる時、その絶対値はアルキメデス的、ということのようです。日常的に使っている計量(重さ、長さなど)は全てこの性質を満たしていると思います。
一方、p進絶対値ではこの性質が成り立ちません。7進絶対値でa=b=7の場合、7の絶対値は1/7, 7を2つ足した14の7進絶対値も1/7となり、増えないのです。
絶対値の定義は満たしているのですが、アルキメデスの性質は満たしていないため、p進絶対値は非アルキメデス的と呼ばる、、、ようです。