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-数学-オイラー探検 オイラーマクローリン公式を使ったゼータ関数の解析接続

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オイラーマクローリンの総和公式は色々な使い方ができることでも有名です。級数数値計算は典型的な使い方ですが、ゼータ関数の定義域(通常の定義では\(s\gt1\))を広げることにも使えます(いわゆる解析接続と呼ばれる手法です)。

をお持ちの方は「14節ゼータの風景」を 参考にしてください。

早速githubからオイラーマクローリン総和公式パッケージを読み込みます。 

(%i1) install_github("YasuakiHonda","euler-maclaurin-sum","master")$
(%i2) asdf_load_source("euler-maclaurin-sum")$

またいくつかの変数について仮定を置いておきます。
(%i3) assume(M>N)$
(%i4) assume(N>0)$
(%i5) assume(M>1)$
(%i6) assume(s>1)$

公式を確認しましょう。
(%i7) ems;
$$ \tag{%o7} \sum_{n=N}^{M}{f\left(n\right)}=\sum_{k=1}^{K-1}{\frac{\left(-1\right)^{k+1}\,B_{k+1}\,\left(\left.\frac{d^{k}}{d\,x^{k}}\,f\left(x\right)\right|_{x=M}-\left.\frac{d^{k}}{d\,x^{k}}\,f\left(x\right)\right|_{x=N}\right)}{\left(k+1\right)!}}+\frac{\left(-1\right)^{K+1}\,\int_{N}^{M}{\overline{B}_{K}\left(x\right)\,\left(\frac{d^{K}}{d\,x^{K}}\,f\left(x\right)\right)\;dx}}{K!}+\int_{N}^{M}{f\left(x\right)\;dx}+\frac{f\left(N\right)}{2}+\frac{f\left(M\right)}{2} $$

では早速f(n)=1/n^s及びK=4としてみます。このKの値は1以上の任意の自然数を設定可能です(その結果、ゼータの定義を\(-K \lt s\)まで広げることが出来ます)。
(%i8) renz:ems,f(n):=n^(-s),K=4,nouns;
$$ \tag{%o8} \sum_{n=N}^{M}{\frac{1}{n^{s}}}=\frac{\left(-s-3\right)\,\left(-s-2\right)\,\left(-s-1\right)\,s\,\int_{N}^{M}{x^{-s-4}\,\overline{B}_{4}\left(x\right)\;dx}}{24}+\frac{N}{N^{s}\,s-N^{s}}-\frac{M}{M^{s}\,s-M^{s}}-\frac{N^{-s-3}\,\left(-s-2\right)\,\left(-s-1\right)\,s-M^{-s-3}\,\left(-s-2\right)\,\left(-s-1\right)\,s}{720}+\frac{N^{-s-1}\,s-M^{-s-1}\,s}{12}+\frac{1}{2\,N^{s}}+\frac{1}{2\,M^{s}} $$

M→∞とします。右辺は項別に極限を取ります。
(%i9) renz1:subst(inf,M,lhs(renz))=map(lambda([exp],factor(limit(exp,M,inf))),rhs(renz));
$$ \tag{%o9} \sum_{n=N}^{\infty }{\frac{1}{n^{s}}}=-\frac{s\,\left(s+1\right)\,\left(s+2\right)\,\left(s+3\right)\,\left(\lim_{M\rightarrow \infty }{\int_{N}^{M}{x^{-s-4}\,\overline{B}_{4}\left(x\right)\;dx}}\right)}{24}-\frac{N^{-s-3}\,s\,\left(s+1\right)\,\left(s+2\right)}{720}+\frac{N^{-s-1}\,s}{12}+\frac{N^{1-s}}{s-1}+\frac{1}{2\,N^{s}} $$

上記の左辺はゼータ関数の定義と似ていますが、和がNから始まっていることを覚えておいてください。

ゼータ関数の普通の定義で総和をNで区切って3つに分けてみます。
(%i10) zeta(s)=sum(n^(-s),n,1,N)+sum(n^(-s),n,N,inf)-N^(-s);
$$ \tag{%o10} \zeta\left(s\right)=-\frac{1}{N^{s}}+\sum_{n=N}^{\infty }{\frac{1}{n^{s}}}+\sum_{n=1}^{N}{\frac{1}{n^{s}}} $$

この3つで区切ったうちの総和がNから始まっている項に、先ほど求めた展開形を代入します。
(%i11) renz2:%,renz1;
$$ \tag{%o11} \zeta\left(s\right)=-\frac{s\,\left(s+1\right)\,\left(s+2\right)\,\left(s+3\right)\,\left(\lim_{M\rightarrow \infty }{\int_{N}^{M}{x^{-s-4}\,\overline{B}_{4}\left(x\right)\;dx}}\right)}{24}-\frac{N^{-s-3}\,s\,\left(s+1\right)\,\left(s+2\right)}{720}+\frac{N^{-s-1}\,s}{12}+\frac{N^{1-s}}{s-1}-\frac{1}{2\,N^{s}}+\sum_{n=1}^{N}{\frac{1}{n^{s}}} $$

ここまで持ってきてからN→∞を計算します。右辺の積分はsが\(-3\lt s\)の時、周期的ベルヌーイ多項式は常に絶対値が最大最小の絶対値以下(=C)であることから、\(\overline{B}_4\left(x\right)\)をCと置き換えた積分を求めることで、0になることがわかります(これは簡単な計算ですが、別の記事にします)。
(%i12) renz3:lhs(renz2)=limit(rhs(substpart(0,renz2,2,1)),N,inf);
$$ \tag{%o12} \zeta\left(s\right)=\lim_{N\rightarrow \infty }{-\frac{N^{-s-3}\,s\,\left(s+1\right)\,\left(s+2\right)}{720}+\frac{N^{-s-1}\,s}{12}+\frac{N^{1-s}}{s-1}-\frac{1}{2\,N^{s}}+\sum_{n=1}^{N}{\frac{1}{n^{s}}}} $$

この式が定義域拡張したゼータ関数となります。\(s\gt 1\)ではN→∞で最後の項以外は0になります。そして最後の項はN→∞で通常のゼータ関数になります。従ってこの範囲では関数は元の定義と一致することがわかります。また\(s \leq -3\)では先ほどの積分が収束しないため、この式が成り立つ、とは言えません。結果としてゼータの定義が\(-3 \lt s \lt 1\)の範囲にも拡張されました。早速この範囲のsについて、いくつか具体的な値を求めてみましょう。

まずs=0です。当然普通の定義\(\sum_{n=1}^{\infty}{\frac{1}{n^{s}}}\)にs=0を入れると発散するのですが、拡張された定義式の右辺にs=0を代入します。
(%i13) rhs(renz3),s=0;

すると以下の答えがすぐに得られます。
$$ \tag{%o13} -\frac{1}{2} $$

これは、定義域拡張したゼータ関数の右辺で、N→∞の前に最後の項を有限和として計算することで、その前の項との打ち消しが起きるからです。

同様にして、s=-1を代入すると、
(%i14) rhs(renz3),s=-1;
$$ \tag{%o14} \lim_{N\rightarrow \infty }{\sum_{n=1}^{N}{n}-\frac{N^2}{2}-\frac{N}{2}-\frac{1}{12}} $$

が得られます。ここでも極限を取る前に最後の項を計算するので打ち消しが起きます。
(%i15) %,simpsum:true,ratsimp;
$$ \tag{%o15} -\frac{1}{12} $$

s=-2とおくと、
(%i16) rhs(renz3),s=-2;
$$ \tag{%o16} \lim_{N\rightarrow \infty }{\sum_{n=1}^{N}{n^2}-\frac{N^3}{3}-\frac{N^2}{2}-\frac{N}{6}} $$

が得られます。同じように計算を進めると、
(%i17) %,simpsum:true,ratsimp;
$$ \tag{%o17} 0 $$

となります。

もう一つ、s=-1/2を代入してみましょう。
(%i18) rhs(renz3),s=-1/2;
$$ \tag{%o18} \lim_{N\rightarrow \infty }{\sum_{n=1}^{N}{\sqrt{n}}-\frac{2\,N^{\frac{3}{2}}}{3}-\frac{\sqrt{N}}{2}-\frac{1}{24\,\sqrt{N}}+\frac{1}{1920\,N^{\frac{5}{2}}}} $$

この極限は閉形式としてはもとまりませんが、数値計算は可能です。limit記号を外してNに例えば20と入れれば計算できます。
(%i19) part(%,1);
$$ \tag{%o19} \sum_{n=1}^{N}{\sqrt{n}}-\frac{2\,N^{\frac{3}{2}}}{3}-\frac{\sqrt{N}}{2}-\frac{1}{24\,\sqrt{N}}+\frac{1}{1920\,N^{\frac{5}{2}}} $$
(%i20) %,N:20,nouns,numer;
$$ \tag{%o20} -0.2078862248259483 $$

答え合わせとして、Maxima組み込みのzeta()関数で計算してみます。
(%i21) zeta(-1/2),numer;
$$ \tag{%o21} -0.2078862249773546 $$

まあ、あっていそうです。

 

追記:ところで、%o18, %o19を見ていると、自然数1〜Nの平方根の総和の漸近近似が見えますね。こちらも別記事で試してみましょう。