Maxima で綴る数学の旅

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-数学- 円分多項式をmod \(X^{p+1}\)で調べる

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鈴木の定理の証明(前半):\(t\)を3以上の任意の奇数とし、素数\(p_1 \lt p_2 \lt \cdots \lt p_t\)を、\(p_1 + p_2 \gt p_t\)を満たす異なる\(t\)個の素数とします。また\(p=p_t, n=p_1\,p_2\,\cdots p_t\)とします。そして\(\Phi_n(X)\, mod X^{p+1}\)について考察します。

$$\begin{eqnarray} \Phi_n(X) &\equiv & \left(\prod_{i=1}^{t}(1-X^{p_i}) \right)/(1-X)\, mod\, X^{p+1}\\
&\equiv & (1+X+\cdots+X^p)\,(1-X^{p_1}-X^{p_2}-\cdots -X^{p_t})\, mod\, X^{p+1} \end{eqnarray}$$

これより、\(c_{p}^{(n)} =-t+1, c_{p-2}^{(n)}=-t+2\)が分かります。\(t\)が3以上の任意の奇数を取るので、\(C\supset \{s \in Z | s \le -1\}\)が導かれます。

まず\(mod\, X^n\)で多項式を計算すると何が起こるのでしょうか。多項式の割り算による商と余りは次のように定義されます。

定義:整数係数の多項式p(x),q(x),a(x),r(x)において、n次多項式p(x)とm次多項式q(x) \( (n\ge m)\)の間に\(p(x)=a(x)\cdot q(x)+r(x)\) (ただしr(x)の次数はm未満)が成り立つ時p(x)をq(x)で割った商はa(x), 余りはr(x)である。

\(mod\, X^n\)で多項式を計算すると、普通の多項式の計算の最後に\(X^n\)で割った余りを取ることになります。n以上の次数の項は\(X^n\)で割り切れますし、n次未満の次数の項は全て余りの一部になります。ざっくり言えばn次未満の項だけで計算して、結果にn次以上の項が有ったら消す、ということです。Maximaのremainder(p,q)関数で実験してみましょう。

(%i1) P(x):=3*x^3+x^2+2*x+3;

$$ \tag{${\it \%o}_{1}$}P\left(x\right):=3\,x^3+x^2+2\,x+3 $$
(%i2) remainder(P(x),x^2);

$$ \tag{${\it \%o}_{2}$}2\,x+3 $$
(%i3) remainder(P(x),x^3);

$$ \tag{${\it \%o}_{3}$}x^2+2\,x+3 $$

 

また今回の計算では円分多項式\(\Phi_n(X)\)の定義式から多項式の分数が現れるように見えますが、実際には全て約分できるので、多項式だけを考えれば良いです。

さらに言えば整数の剰余計算と同様に、途中で現れる計算でも\(X^n\)の剰余を計算してよく、つまりn次以上の項を消してしまって構いません。

 

そして、条件\(p_1 + p_2 \gt p_t\)を考慮すると、\(mod\, X^{p+1}\)での計算をすると、次数が\(p_{i}\cdot p_j\)や\(p_{i}+p_{j}\), \( (1 \le i,j \le t, i\ne j)\)の項は全て消えてしまいます。こんな風にして素数分布の条件が使われているのです。\(p_1=3, p_2=5, p_3=p=7\)の場合、円分多項式と、途中計算で\(X^8\)で剰余を取る計算をやってみましょう。

Maximaで円分多項式を定義して、\(105=3\cdot 5\cdot 7\)次円分多項式を展開する(%o6)のようになります。

(%i??) divproduct(e,var,numN)::=
if numberp(numN) or numberp(ev(numN)) then
buildq([e:e,v:var,numN:(if numberp(numN) then numN else ev(numN))],
block([res:1],
for d in listify(divisors(numN)) do
block([ ],res:e*res),return(res)))
else
buildq([e:e,v:var,numN:numN],apply(nounify(divproduct),['e,'v,numN]))$

(%i5) CP[n](X):=divproduct( (1-X^(n/d))^moebius(d),d,n);

$$ \tag{${\it \%o}_{5}$}{\it CP}_{n}(X):={\it divproduct}\left(\left(1-X^{\frac{n}{d}}\right)^{{\it moebius}\left(d\right)} , d , n\right) $$
(%i6) CP[3*5*7](X);

$$ \tag{${\it \%o}_{6}$}\frac{\left(1-X^3\right)\,\left(1-X^5\right)\,\left(1-X^7\right)\,\left(1-X^{105}\right)}{\left(1-X\right)\,\left(1-X^{15}\right)\,\left(1-X^{21}\right)\,\left(1-X^{35}\right)} $$

今度は展開が起こる前に\(X^8\)で剰余をとってみます。
(%i7) divproduct(remainder( (1-X^(3*5*7/d)),X^8)^moebius(d),d,3*5*7);

$$ \tag{${\it \%o}_{7}$}\frac{\left(1-X^3\right)\,\left(1-X^5\right)\,\left(1-X^7\right)}{1-X} $$

ここまでの計算で(1)式は納得できると思います。

次に、(1)式から(2)式の計算では次のような関係が使われています。

$$\frac{1}{1-X}\equiv 1+X^2+\cdots +X^p \, (mod\, X^{p+1})\\
\prod_{i=1}^{t}(1-X^{p_i}) \equiv 1-X^{p_1}-X^{p_2}-\cdots - X^{p_t} \, (mod\, X^{p+1})$$

これらも次の例を見れば次数の形による項の消え方でこれらが成り立つことが納得できると思います。

(%i8) (1-X)*(1+X+X^2+X^3+X^4+X^5+X^6+X^7);

$$ \tag{${\it \%o}_{8}$}\left(1-X\right)\,\left(X^7+X^6+X^5+X^4+X^3+X^2+X+1\right) $$
(%i9) remainder(%,X^8);

$$ \tag{${\it \%o}_{9}$}1 $$

(%i10) (1-X^3)*(1-X^5)*(1-X^7);

$$ \tag{${\it \%o}_{10}$}\left(1-X^3\right)\,\left(1-X^5\right)\,\left(1-X^7\right) $$
(%i11) remainder(%,X^8);

$$ \tag{${\it \%o}_{11}$}-X^7-X^5-X^3+1 $$

 

最後に、

$$ (1+X+\cdots+X^p)\,(1-X^{p_1}-X^{p_2}-\cdots -X^{p_t})\, mod\, X^{p+1} $$

を展開すると、積の右の中の\(-X^{p_i}\)に対応して積の左の項の中に\(X^{p_t-p_i}\)という項が必ず存在し、その積は\(-X^p\)になること、この組はt個あること、それ以外に積の右の\(X^p\)と積の左の1による\(X^p\)が1つあることから展開した時の\(X^p\)の係数は\(-t+1\)となります。同様に\(X^{p-2}\)の係数は\(-t+2\)となります。

 

ちなみに文献[2]では\(mod\, X^{p+1}\)での計算が少し違っています。

$$\begin{eqnarray} \Phi_n(X) &\equiv & \left(\prod_{i=1}^{t}(1-X^{p_i}) \right)/(1-X)\, mod\, X^{p+1}\\
&\equiv & (1+X+\cdots+X^{p-1})\,(1-X^{p_1}-X^{p_2}-\cdots -X^{p_{t-1}})\, mod\, X^{p+1} \end{eqnarray}$$

なぜこれでも正しいのでしょうか。

式(3)から式(4)への変形では、総積記号の中の\((1-X^p)\)を除いたものと、\(\frac{1-X^p}{1-X}=1+X+\cdots+X^{p-1}\)を掛けたものとして計算しています。式(4) を展開した際の\(X^p\)の係数は、理屈は先ほどの説明とほとんど同じです。

 

鈴木の定理の論文を、気になったところを埋めながら読み進めて、自分としては納得できるレベルで理解することが出来ました!

 

1つ書き忘れました。なぜ鈴木の定理の前半部分でtを奇数としているのでしょうか。\( (P)\)が任意の3以上の自然数で成り立つのに、です。これは式(1)の右辺の分母と分子がtの偶奇で逆になるからなのです。メビウス関数の定義とn/dの約数の数を考えてみてください。