Maxima で綴る数学の旅

紙と鉛筆の代わりに、数式処理システムMaxima / Macsyma を使って、数学を楽しみましょう

-数学- Youtubeビデオ 圏論勉強会で学んだこと(9) 随伴

最終回である第13回の圏論勉強会ビデオです。

なんとか随伴まで辿りつけたことは非常に嬉しいことです。


第13回圏論勉強会@ワークスアプリケーションズ その1

随伴の定義も第1回に出てきたのですが、資料の定義を見てもHom集合には言及せずに書いてあり、解りにくい感があります。以下は第13回で与えられた定義です。

随伴のHom集合定義:圏\(\mathcal{C, D}\)の間の函手\(F,G, F:\mathcal{C}\rightleftarrows \mathcal{D}:G\)について、任意の対象\(X, Y\)について、自然同型\(\phi:Hom_C(X,G(Y)) \cong Hom_D(F(X),Y)\)が成り立つ時、組\((F, G, \phi)\)を随伴と呼ぶ。また\(F\)を\(G\)の左随伴、\(G\)を\(F\)の右随伴と呼ぶ。

$$\xymatrix{
F(X) \ar[rr] & \ar@<-0.2em>[d]_{\phi_{X,Y}} & Y & in\, \mathcal{D} \\
X \ar[rr] & \ar@<-0.2em>[u]_{\phi^{-1}_{X,Y}} & G(Y) & in\, \mathcal{C}
}$$

また次の記号を使う:

$$F\dashv G$$

Hom集合の間の自然同型はHom函手の間の自然同型と考えれば良いと思います。具体的には、任意の\(X,Y\)と任意の\(f:X\rightarrow X',\, g:Y\rightarrow Y'\)について以下の可換図式が成り立つことである。

$$\xymatrix{
Hom_C(X,G(Y) ) \ar@{=}[r]^{\phi_{X,Y}} \ar[d]_{(f,G(g) )} & Hom_D(F(X),Y) \ar[d]^{(F(f),g)}\\
Hom_C(X',G(Y') ) \ar@{=}[r]_{\phi_{X',Y'}} & Hom_C(F(X'), Y')
}$$

随伴の単位による定義: 圏\(\mathcal{C, D}\)の間の函手\(F,G, F:\mathcal{C}\rightleftarrows \mathcal{D}:G\)について、任意の対象\(X,Y\)と射\(f:X\rightarrow G(Y)\)について以下の図式が可換になる\(\overline{f}\)が唯一存在すること:

$$\xymatrix{
& F(X) \ar@{.>}[rr]^{\overline{f}} & & Y &  in\, \mathcal{D} \\
1_{\mathcal{C}} \ar@{=>}[d]_{\eta} & X \ar[rr]^{f} \ar[d]_{\eta_X} & & G(Y) & in\, \mathcal{C}\\
G\circ F & G\circ F(X) \ar[urr]_{G(\overline{f})}
}$$

随伴の単位による定義、といえば、まず上図の上半分の函手の定義を書き、次に\(F(X), \overline{f}\)を函手\(G\)で圏\(\mathcal{C}\)に戻したものを書き足して三角形を作り、三角形の縦の部分の射の定義を「単位」という言葉で思い出しながら仕上げる、ということを出来るようになったのは、一つ進化したような気がします。

随伴の余単位による定義は、前段と同様に可換図式を作図することもできるが、単位による定義の双対としても得られる。図式だけ書いておく。

随伴の余単位による定義の可換図式:

$$\xymatrix{
& F(X)  & & Y \ar@{.>}[ll]^{\overline{f}} &  in\, \mathcal{D} \\
1_{\mathcal{C}} & X & & G(Y) \ar[ll]^{f} \ar[dll]^{G(\overline{f})} & in\, \mathcal{C}\\
G\circ F \ar@{=>}[u]_{\epsilon} &  G\circ F(X) \ar[u]_{\epsilon_X} 
}$$

随伴の例として、対角函手と直積を述べる(これも第1回のビデオで登場している)。

対角函手\(\Delta\)とは任意の対象\(C\)に組\(C\times C\)を対応させ、射\(f\)に射の組\( (f,f)\)を対応させる函手である。対角函手の右随伴が直積になることを示す。

まず余単位による随伴の定義の可換図式を、向きを変えて見やすくする。

随伴の余単位による定義の可換図式:

$$\xymatrix{
Y \ar@{.>}[rr]^{\overline{f}} & & F(X) & in\, \mathcal{D}  \\
G(Y) \ar[rr]^{f} \ar[drr]^{G(\overline{f})} & & X & in\, \mathcal{C}\\
& & G\circ F(X) \ar[u]_{\epsilon_X} 
}$$

この図式の\(Y\)を\(X\)に、\(F(X)\)を\(P(A,B)\)に、\(G(-)\)を\( (-, -) \)に置換すると次の可換図式が得られる。

$$\xymatrix{
X \ar@{.>}[rr]^{\overline{u}} & & P(A,B) & in\, \mathcal{D}  \\
(X, X) \ar[rr]^{(f,g)} \ar[drr]_{(u,u)} & & (A,B) & in\, \mathcal{C}\\
& & (P(A,B),P(A,B) ) \ar[u]_{\epsilon_X} 
}$$

 さてこの可換図式における\(\epsilon_X\)は図より\(\epsilon_X:(P(A,B),P(A,B) ) \rightarrow (A,B)\)であり、2つの射\(\pi_1:P(A,B)\rightarrow A, \pi_2:P(A,B)\rightarrow B\)を束ねたものなので、\(\epsilon_X=(\pi_1, \pi_2)\)とできる。これにより可換図式は最終的にこうなる。

$$\xymatrix{
X \ar@{.>}[rr]^{\overline{u}} & & P(A,B) & in\, \mathcal{D}  \\
(X, X) \ar[rr]^{(f,g)} \ar[drr]_{(u,u)} & & (A,B) & in\, \mathcal{C}\\
& & (P(A,B),P(A,B) ) \ar[u]_{(\pi_1, \pi_2)} 
}$$
 

圏\(\mathcal{C}\)の積(対象も射も積になっている)を全て第1項だけ、また第2項だけを取ると、 

$$\xymatrix{
X \ar[rr]^{f} \ar[drr]_{u} & & A & \\
& & P(A,B) \ar[u]_{\pi_1} 
}
\xymatrix{
X \ar[rr]^{g} \ar[drr]_{u} & & B & \\
& & P(A,B) \ar[u]_{\pi_2} 
}$$
 

これらをまとめて、さらに\(u\)が唯一存在する条件を合わせると、下記の可換図式を得る。

$$\xymatrix{
 & & A & \\
X \ar@{.>}[rr]^{u} \ar[urr]^{f} \ar[drr]_{g}& & P(A,B) \ar[u]_{\pi_1} \ar[d]^{\pi_2}\\
 & & B &
}$$
 

 このように、積の定義が対角函手の随伴として得られることが分かった。

指数対象も随伴で捕らえられる。\(F(X)=X\times A\)という函手の右随伴を計算するとそれが指数対象であることが、可換図式への代入で分かる。

 

講義はこの後、モナド、モノイド対象、それらの表示的意味論への応用と進みますが、長くなるので、この勉強ノートはここまでとします。

講義ビデオを公開している中村晃一さんには大変感謝をしております。