第6回 積 余積 極限
終対象: その対象に対して、すべての対象から向かう射が唯一存在すること。
同型を除いて一つに定まる。
証明:2つの終対象A, Bがある場合、定義より以下の図式が成り立つ。
$$
\xymatrix{ A \ar@(ul,dl)[ ]_{id_A} \ar@<0.5em>[r]^f & B \ar@(ur,dr)[ ]^{id_B} \ar@<0.5em>[l]^g}
$$
ここでAも対象なので、AからAに向かう射は定義によりただ一つ。従って\(id_A\)と\(g \circ f\)は同じでなければならない。\(id_A=g \circ f\)。つまりfは同型射。同様にgも同型射。従ってA, Bは同型である。
始対象: その対象から、すべての対象に対して向かう射が唯一存在すること。
同型を除いて一つに定まる。
証明:始対象は双対圏での終対象となるから。
モノイド圏の場合、終対象と始対象は一致し、1つの対象と1つの射(恒等射)からなるモノイドである。
順序集合における始対象、終対象は最小、最大に相当する。
積と余積
積は対象P, A, Bと射\(p_1, p_2\)からなり、下記左の図が可換になる\(u\)が唯一存在すること。余積は下記右の図が可換になる\(u\)が唯一存在すること。下記の図で\(\xymatrix{ \ar@{.>}[r] & }\)は射が唯一存在することを示している。
$$
\xymatrix {
& X \ar[dl]_{f} \ar[dr]^{g} \ar@{.>}[d]^{u}& \\
A & P \ar[l]^{p_1} \ar[r]_{p_2} & B \\
}
\xymatrix {
& X & \\
A \ar[ur]^f \ar[r]_{p_1} & P \ar@{.>}[u]^u & B \ar[ul]_g \ar[l]^{p_2} \\
}
$$
以下、積と余積を使いながら極限の定義に向かう(らしい)。
積をある圏の終対象、余積をある圏の始対象として定式化することができる。
A, Bを固定して、任意のXについて\(\xymatrix{ A & X \ar[l] \ar[r] & B }\) という図式を対象とする圏を考える。\(\xymatrix{ A & X \ar[l] \ar[r] & B }\)から\(\xymatrix{ A & Y \ar[l] \ar[r] & B }\) への射\(f\)は、
$$
\xymatrix{
& X \ar[dl] \ar[d]_f \ar[dr] & \\
A & Y \ar[r] \ar[l] & B
}
$$
を可換にする\(f : X \rightarrow Y\) とする。
圏になっていることの証明:対象と射は定義されているので、射が結合則を満たすこと、恒等射が存在することを証明する。まず結合則から示す。
A,Bを固定して、任意のW,X,Y,Zについて\(f:W \rightarrow X,\, g:X \rightarrow Y,\, h:Y \rightarrow Z\)が射とする。これらは圏の射なので結合則を満たす。そして、AWB, AXB, AYB, AZBをこの圏の対象とする。その時、下記の可換図式、
$$
\xymatrix{
& W \ar[d]^f \ar[dddl] \ar[dddr] & \\
& X \ar[d]^g \ar[ddl] \ar[ddr] &\\
& Y \ar[d]^h \ar[dl] \ar[dr] & \\
A & Z \ar[r] \ar[l] & B
}
$$
において、三角形WAZBを可換にする射は合成射\(h \circ (g \circ f)\)であり、また射\((h \circ g) \circ f\)であり、これらの射が等しいことから、\(f:AWB \rightarrow AXB,\, g:AXB \rightarrow AYB,\, h:AYB \rightarrow AZB\)も結合則を満たすことがわかる。
次に恒等射の存在を示す。任意の対象Xについて恒等射\(id_X\)が存在する。この時、
$$
\xymatrix{
& X \ar[dl] \ar[d]_{id_X} \ar[dr] & \\
A & X \ar[r] \ar[l] & B
}
$$
において、\(id_x:X \rightarrow X\)はこの図を可換にするので\(id_X\)がAXBの恒等射となることがわかる。
この圏の終対象が積である。
証明:
$$
\xymatrix{
& Y \ar[dl] \ar[d]_{u} \ar[dr] & \\
A & Z \ar[r] \ar[l] & B
}
$$
この図を対象AYB, AZBとのその間の射\(u\)と見ると、\(u\)は定義よりこの図を可換にする。さらにAZBがこの圏の終対象であれば終対象の定義より、任意のAYBに対して射\(u\)は唯一存在する。
この図を対象A, Y, Z, Bに関する図式としてみると可換でありかつ射\(u:Y \rightarrow Z\)が唯一存在するので、積の定義を満たす。したがって\(\xymatrix{ A & Z \ar[l] \ar[r] & B }\)は積である。
コーンと底
積の図の見方を変える。
$$ \xymatrix{
Z \ar[d] \ar[dr] & & Y \ar[dll] \ar[dl] \ar@{.>}[ll]^u \\
A & B &
}$$
これはABを底とする2つのコーン(頂点Zのコーンと頂点Yのコーン)の間の関係と見ることができる。より一般化するとABの部分をより複雑な対象と射(これを底と呼ぶ)としてもその上の複数のコーンの間の関係を対応する頂点の間の関係として、記述できる。
この底の部分を記述する方法は、底の部分の関係からなる圏Jを「インデックス」として圏Cへの函手Dが底のパターンの記述となる。積の場合にはインデックスは2つの対象からなる離散圏とすればよい。
極限
極限の定義:圏\(J\)をインデックスとして圏\(C\)への函手\(D:J \rightarrow C\)に対して\(D\)を底とするコーンのなす圏の終対象を\(D\)の極限(limit)あるいは射影的極限(projective limit)と呼び、その頂点を
$$\lim_{\longleftarrow}D$$
と表す。以下は\(ABEF\)を底とするコーンとその極限の図式。
$$\xymatrix{
\lim\limits_{\leftarrow}D \ar[ddd] \ar[ddr] \ar[ddrr] \ar[dddrrr] & & X \ar[dddr] \ar[dd] \ar[ddl] \ar[dddll] \ar@{.>}[ll]& \\
& & &\\
& A \ar@{-}[r] & B \ar@{-}[dr]& \\
E \ar@{-}[ur] & & & F \ar@{-}[lll]
}$$
積の整理
積\(A\times B\)から\(C\times D\)への射の可換図式
$$\xymatrix{
A \ar[d]_f & A \times B \ar[l]_{p_1} \ar[r]^{p_2} \ar@{.>}[d]^{f \times g} & B \ar[d]^g \\
C & C \times D \ar[l]_{p_3} \ar[r]^{p_4} & D
}$$
\(f \circ p_1=p_3 \circ f \times g, \, g \circ p_2=p_4 \circ f\times g\)が成り立つ。
3つ及びそれ以上の対象の積
n個の離散対象からなる圏\(J\)をインデックスとする函手\(D:J\rightarrow C\)の極限は圏\(C\)のn個の対象の積を直接定義する。
一方2つの対象の積とさらに別の対象との積で、3つの対象の積を定義できる。いずれの方法で定義しても同型を除いて同じものが定義される。