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-数学- Youtubeビデオ 圏論勉強会で学んだこと(3)

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この記事は圏論勉強会第5回のビデオの勉強ノートです。自分の頭の中ではまだ辻褄が合っています。



第5回圏論勉強会@ワークスアプリケーションズ

 

第5回 射で考える

 

同型、同型射、逆射

対象A, Bが同型とは、

$$
\xymatrix{ A \ar@(ul,dl)[ ]_{id_A} \ar@<0.5em>[r]^f & B \ar@(ur,dr)[ ]^{id_B} \ar@<0.5em>[l]^g}
$$

が可換であることであり、その時\( A\cong B\)とかく。f, gをA, Bの同型射という。fに対してgは一意に定まるのでf^(-1)と書き、fの逆射という。

 

同型の性質

  • Fが函手なら\(A \cong B\)の時、\(F(A) \cong F(B)\)である。細かくいうと、\(f:A \to B\)で、\(f\)が同型射なら、\(F(f)\)も同型射。\(f\)が同型射なら\(F(f)^{-1}=F(f^{-1})\)。
  • 圏\(\mathcal{C}\)での同型射は双対圏\(\mathcal{C^{op}}\)での同型射になる。
  • 圏\(\mathcal{C}\)で\(A \cong B\)ならば\(\mathcal{C}\)の任意の対象\(X\)に対して、次が成り立つ。
    $$ Hom_{\mathcal{C}}(X,A) \cong Hom_{\mathcal{C}}(X,B) \\
    Hom_{\mathcal{C}}(A,X) \cong Hom_{\mathcal{C}}(B,X) $$

    \(f:A \rightarrow B\)が同型射なら、「\(f\)を左から合成」が\(Hom_{\mathcal{C}}(X,A) \rightarrow Hom_{\mathcal{C}}(X,B)\)の同型射を与える。同様に「\(f^{-1}\)を右から合成」が\(Hom_{\mathcal{C}}(A,X) \rightarrow Hom_{\mathcal{C}}(B,X)\)の同型射を与える。

$$
\xymatrix{
X \ar[d]_g \ar[dr]^{f \circ g} & \\
A \ar[r]_f & B}
\xymatrix{
& X \\
A \ar[ur]^h & B \ar[l]^{f^{-1}} \ar[u]_{h \circ f^{-1}} } 
$$

  • AとBが同型であれば、射として区別がつかない。Aを含む可換図式のAをBに置き換えても成り立つ。

$$
\xymatrix{
X \ar[rrr]^{h \circ g} \ar[d]_g & & & Y \\
A \ar[urrr]^h \ar@<0.2em>[rrr]^f & & & B \ar@<0.2em>[lll]^{f^{-1}} 
}
\xymatrix{
X \ar[rrr]^{h \circ g} \ar[d]_g \ar[rrrd]_{f \circ g} & & & Y \\
A \ar[urrr]^h \ar@<0.2em>[rrr]^{\,\,\,\,\,\,f} & & & B \ar@<0.2em>[lll]^{f^{-1}} \ar[u]_{h \circ f^{-1}}
}
$$

  • \(f:A\to B,\, g:B\to C\)が同型射であれば、\(g\circ f:A\to C\)も同型射でその逆射は\(f^{-1}\circ g^{-1}:C\to A\)である。
  • モノイド\((M, \bullet)\)を圏と見た時、同型射は逆元のある元(可逆元)のことである。
  • 半順序集合\((S,\ge)\)の要素\(x\)の同型は\(x\)のみである。
  • 証明の圏における同型とは、\(P\to Q\)と\(Q\to P\)が両方言えることであるので、同値、である。

 

集合の圏Setsの同型

集合の圏\(\mathcal{Sets}\)における同型射とは、全単射のこと。ここで\(f:A\to B\)が、単射とは\(f(x)=f(y) \to x=y\)が成り立つこと、全射とは\(\forall y \in B, \exists x, f(x)=y\)が成り立つこと、である。

2つの集合が同型であるとき、それらは同じ濃度を持つ、と定義する。

カントールの定理:任意の集合Aの全ての部分集合を集めた集合をAの冪集合(power set)といい、\(\mathcal{P}(A)\)とかく。この時Aと\(\mathcal{P}(A)\)の間に全射はない。

 証明はちょっと変わっています。

背理法を使います。Aから\(\mathcal{P}(A)\)への全射\(f:A\to \mathcal{P}(A)\)があるとします。Aの任意の部分集合MについてAの元xが存在して、f(x)=Mとできます。この時f(x)はAの部分集合なのでAの元xを含むか含まないか、どちらかです。そこで次のような集合Xを考えます。

\( X=\{ x \in A | x \notin f(x) \}\)

Aの部分集合f(x)がxを含まない、ようなxを集めた集合をXとしたわけです。 XもAの部分集合であることに注意してください。fは全射でしたから、f(x)=Xとなるxがあるはずです。そのxについてもし\(x \in X\)ならばX=f(x)より\(x \in f(x)\)だが、Xの定義を見ると\(x \notin f(x)\)ですから矛盾です。一方もし\(x \notin X\)ならばX=f(x)より\(x \notin f(x)\)だがこれはXの定義より\(x \in X\)を意味し、矛盾。いずれにしろ矛盾する。

よってAから\(\mathcal{P}(A)\)への全射は存在しません。

 

レトラクト(とセクション)

$$
\xymatrix{
   & B \ar[rd]^r& \\
A \ar[rr]^{id_A} \ar[ur]^s &    & A
}
$$

sをrのセクション、rをsのレトラクション、AをBのレトラクトと呼ぶ。同型射の条件の半分だけを満たしている。BがAを取り出せる形で含んでいることを表す。

 

Setsにおけるレトラクト

\(\mathcal{Sets}\)において\(r \circ s=id_A\)ならばsは単射、rは全射である。

一般に\(r:B\to A\)が全射であれば、Bの要素はAの要素と同じ数だけの互いに素な集合に類別される。これは面白い。全射なのでBの要素は全てAのどれかにマッピングされる。Bの複数の要素がAのある要素に対応してもよい。同じAの要素に行くものをまとめた類をBの中に作れる。全射なのであるAの要素に行かない、という状況はない。

\(s:A\to B\)で、Aの要素に対応するBの中の類の中の一つの要素を選んでいる。代表元ともいえる。

\(s\circ r:B\to B\)はBの元を同じ類の代表元にマッピングする。同じ類のどの元でもその類の代表元に移ることから、射影という考えと似ている。

 

モノ射とエピ射

単射と全射の圏論における一般化がモノ射とエピ射である。まずモノ射。

定義:射\(m:A\to B\)がモノ射であるとは、任意の対象\(X\)と射\(f,g:X\to A\)について、\(m\circ f=m\circ g \implies f=g\)。

$$
\xymatrix{X \ar@<0.2em>[r]^f \ar@<-0.2em>[r]_g & A \ar[r]^m & B}
$$

圏\(\mathcal{Sets}\)では モノ射は単射、単射はモノ射。例えば、mが単射でなければ、Aの異なる元でmでBの同一元に行くことがある。従ってf=gでなくても\(m\circ f\)と\(m\circ g\)が同じになる場合を作れる。つまり単射でなければモノ射ではない。

定義:

射\(e:A\to B\)がエピ射であるとは、任意の対象\(X\)と射\(f,g:B\to X\)について、\(f\circ e=g\circ e \implies f=g\)。

$$
\xymatrix{A \ar[r]^e  & B \ar@<0.2em>[r]^f \ar@<-0.2em>[r]_g & X}
$$

圏\(\mathcal{Sets}\)ではエピ射は全射、全射はエピ射。例えばeが全射でなければ、Bのある元でeでマップされない元xがある。その元xでは\(f(x)\neq g(x)\)であり\(f\neq g\)であっても、 それ以外の元yでは常に\(f(y)=g(y)\)であれば、\(f\circ e=g\circ e\)は成り立つ。

 

モノ射でエピ射だが同型射ではない例

モノイド圏における準同型\(f:(N,+)\to (Z,+),\, f(x)=x\)を考える。fは単射でありモノ射であることは自明。一方、全射でないことも自明だが、エピ射になる。理由は以下の図:
$$
\xymatrix{(N,+) \ar[r]^f  & (Z,+) \ar@<0.2em>[r]^g \ar@<-0.2em>[r]_h & (M,\bullet})
$$

で、\(g\circ f=h\circ f\)の時、\(x\ge 0\)とするとその範囲で\(f(x)=x\)から\(g(x)=h(x)\)となる。また\(x\ge 0\)の時\(-x\)の移り先\(g(-x), h(-x)\)は、g,hがモノイド準同型であることから\(g(x)^{-1}, h(x)^{-1}\)に移るが、\(g(x)=h(x)\)より\(g(x)^{-1}=h(x)^{-1}\)となる。このため\(x\lt 0\)でも\(g(x)=h(x)\)が成立する。結局任意のxについて\(g(x)=h(x)\)より\(g=h\)となる。