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-数学- リュカ多項式の性質 (1)

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この記事のコードをJupyter notebook形式で見るにはこちら。 

リュカ多項式の様々な性質については「数学的帰納法で証明できる」で済ませてきました。リュカ多項式とお友達になるには、この記事で証明を確認してください。この記事の証明はMatt Baker 教授の下記のブログを参考にしました。

mattbaker.blog

まず\(LP_{n}(x)\)の再帰的定義を与え、いくつかの\(n\)について\(LP_{n}(x)\)を具体的に計算してみます。

(%i1) LP[0](x):=2;

$$ \tag{${\it \%o}_{1}$}{\it LP}_{0}(x):=2 $$
(%i2) LP[1](x):=x;

$$ \tag{${\it \%o}_{2}$}{\it LP}_{1}(x):=x $$
(%i3) LP[n](x):=x*LP[n-1](x)+LP[n-2](x);

$$ \tag{${\it \%o}_{3}$}{\it LP}_{n}(x):=x\,{\it LP}_{n-1}(x)+{\it LP}_{n-2}(x) $$
(%i4) for n:1 thru 12 do print(expand('LP[n](x)=LP[n](x)));

\({\it LP}_{1}(x)=x\)
\({\it LP}_{2}(x)=x^2+2\)
\({\it LP}_{3}(x)=x^3+3\,x\)
\({\it LP}_{4}(x)=x^4+4\,x^2+2\)
\({\it LP}_{5}(x)=x^5+5\,x^3+5\,x\)
\({\it LP}_{6}(x)=x^6+6\,x^4+9\,x^2+2\)
\({\it LP}_{7}(x)=x^7+7\,x^5+14\,x^3+7\,x\)
\({\it LP}_{8}(x)=x^8+8\,x^6+20\,x^4+16\,x^2+2\)
\({\it LP}_{9}(x)=x^9+9\,x^7+27\,x^5+30\,x^3+9\,x\)
\({\it LP}_{10}(x)=x^{10}+10\,x^8+35\,x^6+50\,x^4+25\,x^2+2\)
\({\it LP}_{11}(x)=x^{11}+11\,x^9+44\,x^7+77\,x^5+55\,x^3+11\,x\)
\({\it LP}_{12}(x)=x^{12}+12\,x^{10}+54\,x^8+112\,x^6+105\,x^4+36\,x^2+2\)
$$ \tag{${\it \%o}_{4}$}\mathbf{done} $$

命題1:\({\it LP}_{n}(x)\)の定数項\({\it LP}_{n}(0)\)は\({\it LP}_{n-2}(x)\)の定数項\({\it LP}_{n-2}(0)\)と等しい。

証明:定義式%o3の右辺で\(x=0\)とすると最初の項が消えるので2番目の項の定数項だけが残る。

 

命題2:\(n\)が偶数の時\({\it LP}_{n}(0)=2\), \(n\)が奇数の時\({\it LP}_{n}(0)=0\)である。

証明:命題1と初期値から明らか。

 

命題3:\(n\)が奇数の時、\({\it LP}_{n}(x)\)の1次の項の係数は\(n\)である。

証明:\(n=1\)の時1次の項の係数は1で成立している。\(n\)が\(n\ge3\)の奇数の時、\(n\)未満の全ての奇数\(k\)で\({\it LP}_{k}(x)\)の1次の項の係数は\(k\)とする。\({\it LP}_{n}(x)\)の1次の項の係数は\({\it LP}_{n-1}(x)\)の定数項と\({\it LP}_{n-2}(x)\)の1次の項の係数の和である。前者は\(n-1\)が偶数であることから2, 後者は\(n-2\)が奇数であることと帰納法の仮定から\(n-2\)であり、足すと\(n\)になる。

 

命題4:\(n\)が奇数の時、\({\it LP}_{n}(x)\)の偶数次数の項の係数は\(0\)である。\(n\)が偶数の時、\({\it LP}_{n}(x)\)の奇数次数の項の係数は\(0\)である。

証明:\({\it LP}_{0}(x)=2,\, {\it LP}_{1}(x)=x\)では確かに成立している。\(n\)が3以上の整数である時、命題が\(n\)未満の全ての自然数\(k\)で成立すると仮定する。\(n\)が奇数の時\(n-1\)は偶数で、帰納法の仮定より\({\it LP}_{n-1}(x)\)の奇数次数の項の係数は\(0\), 故に\(x\,{\it LP}_{n-1}(x)\)の偶数次数の項の係数は\(0\)である。また\(n-2\)は奇数なので帰納法の仮定より\({\it LP}_{n-2}(x)\)の偶数次数の項の係数は\(0\)。従って、\({\it LP}_{n}(x):=x\,{\it LP}_{n-1}(x)+{\it LP}_{n-2}(x)\)の右辺の偶数次数の項の係数は全て\(0\)。\(n\)が偶数の場合も同様である。

 

命題5: 任意の\(n \ge 1\)について \({\it GLP}_{n}(x)=n\,\sum_{k=0}^{\left \lfloor \frac{n}{2} \right \rfloor}{\frac{{{n-k}\choose{k}}\,x^{n-2\,k}}{n-k}}\)が成り立つ。以下\(k\)の範囲は\(0 \le k \le {\left \lfloor \frac{n}{2} \right \rfloor}\)である。

証明:

まずこの有限級数(\(x\)の多項式)を\(GLP_{n}(x)\)として定義する。

(%i142) GLP[n](x):=intosum(sum(n/(n-k)*binomial(n-k,k)*x^(n-2*k),k,0,floor(n/2)));

$$ \tag{${\it \%o}_{142}$}{\it GLP}_{n}(x):={\it intosum}\left({\it sum}\left(\frac{n}{n-k}\,{{n-k}\choose{k}}\,x^{n-2\,k} , k , 0 , \left \lfloor \frac{n}{2} \right \rfloor\right)\right) $$

ちょっと見易く表示してみる。
(%i143) 'GLP[n](x)=GLP[n](x);

$$ \tag{${\it \%o}_{143}$}{\it GLP}_{n}(x)=n\,\sum_{k=0}^{\left \lfloor \frac{n}{2} \right \rfloor}{\frac{{{n-k}\choose{k}}\,x^{n-2\,k}}{n-k}} $$

この定義が元の\(LP_{i}(x)\)と同じ多項式を生成することを一旦、目視で見てから証明に取り掛かることにしよう。\(n=1,\, 2\)で一致することは後の証明で使う。
(%i145) for i:1 thru 12 do print(ev(GLP[i](x),nouns,expand));

\(x\)
\(x^2+2\)
\(x^3+3\,x\)
\(x^4+4\,x^2+2\)
\(x^5+5\,x^3+5\,x\)
\(x^6+6\,x^4+9\,x^2+2\)
\(x^7+7\,x^5+14\,x^3+7\,x\)
\(x^8+8\,x^6+20\,x^4+16\,x^2+2\)
\(x^9+9\,x^7+27\,x^5+30\,x^3+9\,x\)
\(x^{10}+10\,x^8+35\,x^6+50\,x^4+25\,x^2+2\)
\(x^{11}+11\,x^9+44\,x^7+77\,x^5+55\,x^3+11\,x\)
\(x^{12}+12\,x^{10}+54\,x^8+112\,x^6+105\,x^4+36\,x^2+2\)
$$ \tag{${\it \%o}_{145}$}\mathbf{done} $$

では証明。数学的帰納法を使う。上述のように\(n=1,\, 2\)で一致することは示した。帰納法の仮定として、\(n\)未満の全ての\(m\)について\(GLP_{m}(x)\)が\(LP_{m}(x)\)の再帰的定義式を満たしていると仮定する。

\(GLP_{n}(x)\)が\(LP_{n}(x)\)と同じ再帰的定義を満たすことを示す。それには\(LP_{n}(x)\)の定義式の右辺と左辺で任意の\(k\), \(0 \le k \le {\left \lfloor \frac{n}{2} \right \rfloor}\)について \( (n-2\,k) \)次の係数が一致することを仮定を使って示せば良い。

\(GLP_{n}(x)\)の\( (n-2\,k) \)次の項の係数を取り出すと、
(%i71) C:n/(n-k)*binomial(n-k,k);

$$ \tag{${\it \%o}_{71}$}\frac{n\,{{n-k}\choose{k}}}{n-k} $$

である。再帰的定義から右辺の\( (n-2\,k) \)次の項の係数を計算する式は(%i74)で与えられる。これは\(LP_{n-1}(x),\,LP_{n-2}(x)\)が帰納法の仮定に従うこと、\(LP_{n-2}(x)\)の\(n-2\,k\)次の次数は\( n - 2 - 2 \, (k - 1) \)と書き換えられることから得られる。
(%i74) subst(n-1,n,C)+subst(k-1,k,subst(n-2,n,C));

$$ \tag{${\it \%o}_{74}$}\frac{\left(n-1\right)\,{{n-k-1}\choose{k}}}{n-k-1}+\frac{\left(n-2\right)\,{{n-k-1}\choose{k-1}}}{n-k-1} $$

%o71と%o74が一致することを示す。引き算して簡易化すると0になることを見る。
(%i78) rec:C-(subst(n-1,n,C)+subst(k-1,k,subst(n-2,n,C)));

$$ \tag{${\it \%o}_{78}$}\frac{n\,{{n-k}\choose{k}}}{n-k}-\frac{\left(n-1\right)\,{{n-k-1}\choose{k}}}{n-k-1}-\frac{\left(n-2\right)\,{{n-k-1}\choose{k-1}}}{n-k-1} $$

(%i79) makefact(rec),factorial_expand:true,factor;

$$ \tag{${\it \%o}_{79}$}0 $$

​これで\(LP_{n}(x)\)と\(GLP_{n}(x)\)は\(n \ge 1\)で一致することが示せた。

 

系1:  \(\frac{n\,{{n-k}\choose{k}}}{n-k}\)は整数である。

証明: \(LP_{n}(x)\)と\(GLP_{n}(x)\)は\(n \ge 1\)で一致するが、再帰的定義から明らかに\(LP_{n}(x)\)の係数は整数である。

 

系2: \(p\)を奇素数として\(LP_{p}(x)\)の係数\(\frac{p\,{{p-k}\choose{k}}}{p-k}\)は\(k \ge 1\)のとき\(p\)の倍数であり\(k=0\)のとき1である。

証明: \(k \ge 1\)のとき\(p \gt p-k\)なので、\(p-k\)は\(p\)を割り切らない。系1より係数\(\frac{p\,{{p-k}\choose{k}}}{p-k}\)は整数なので、\(p-k\)は\({{p-k}\choose{k}}\)を割り切ることとなる。\(p\)はそのまま残るので、係数は\(p\)の倍数である。\(k=0\)のとき\(\frac{p\,{{p-k}\choose{k}}}{p-k}=\frac{p\,{{p}\choose{0}}}{p}={{p}\choose{0}}=1\)である。

 

系3: \(p\)を奇素数として、\(LP_{p}(x) \equiv x^p\, mod\, p\) 及び\(H_{p}(x) \equiv x^{\frac{p-1}{2}} \, mod\, p\)が成り立つ。

証明: 系2より\(LP_{p}(x), H_{p}(x)\)の各項の係数は\(mod\,p\)では\(k=1\)の場合だけ1として残り、あとは0となる。