Maxima で綴る数学の旅

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-数学- 命題I, ガロア群の計算

命題Iでは与えられた方程式の解\(\alpha, \beta, \gamma\ldots\)がm個ある場合、根の置換の群で以下の2つの性質を持つものがあるとしています:(1)その群の置換で値の変わらない根の関数が有理的に表されること、(2)有理的に表さられる根の関数はこの群の置換で変わらない。 

そしてその群を置換群として具体的に構成する方法が述べられています。

前回までの成果(\(\alpha, \beta, \gamma\)がVの整式で表されたこと)を使うと、V1〜V6をVの整式として表すことができます。

(%i43) VNCond:VCond,sol1,sol2,sol3,ratsimp;
$$ \tag{%o43} \left[ \mathrm{V1}=V , \mathrm{V2}=-V^2+2\,V+6 , \mathrm{V3}=V^2-V-6 , \mathrm{V4}=V^2-2\,V-6 , \mathrm{V5}=-V^2+V+6 , \mathrm{V6}=-V \right] $$

前回まで(補助定理IVの最後のところ)でfirst(p4)(\(=V^3-9\,V-9\))がVの最小多項式と仮定しました。V1〜V6のどれがfirst(p4)を満たすのかを確認します。やり方はfirst(p4)にV1〜V6を代入しfirst(p4)を使って次数下げなどをして(ここで仮定を使っています)、実は代入した結果が0であれば、それはfirst(p4)の解です。0でなければ解ではありません。

やって見ましょう。
(%i44) if(ev(remainder(subst(V1,V,first(p4)),first(p4)),VNCond)=0) then print(V1=ev(V1,VNCond))$
$$\mathrm{V1}=V$$

(当たり前ですが)一つ見つかりました。
(%i45) if(ev(remainder(subst(V2,V,first(p4)),first(p4)),VNCond)=0) then print(V2=ev(V2,VNCond))$

(%i46) if(ev(remainder(subst(V3,V,first(p4)),first(p4)),VNCond)=0) then print(V3=ev(V3,VNCond))$
(%i47) if(ev(remainder(subst(V4,V,first(p4)),first(p4)),VNCond)=0) then print(V4=ev(V4,VNCond))$
$$\mathrm{V4}=V^2-2\,V-6$$

もう一つ見つかりました。
(%i48) if(ev(remainder(subst(V5,V,first(p4)),first(p4)),VNCond)=0) then print(V5=ev(V5,VNCond))$
$$\mathrm{V5}=-V^2+V+6$$

もう一つ見つかりました。
(%i49) if(ev(remainder(subst(V6,V,first(p4)),first(p4)),VNCond)=0) then print(V6=ev(V6,VNCond))$

V1〜V6のうちV1, V4, V5がfirst(p4)の根であることが分かりました。

 

ここでいきなりですが、今求めたV1, V4, V5を用いて、ガロアの原論文の命題Iに従って次のような順列からなる置換群を考えます。matrix()で行列を生成していますが、これは見やすさのためだけで、行列としての意味はありません。1行目の順列から1行目の順列への置換(これは必ず恒等置換)、1行目の順列から2行目の順列への置換、1行目の順列から3行目の順列への置換からなる置換群、と読んでください。
(%i50) matrix(['alphaV(V1),'betaV(V1),'gammaV(V1)],
['alphaV(V4),'betaV(V4),'gammaV(V4)],
['alphaV(V5),'betaV(V5),'gammaV(V5)]);
$$ \tag{%o50} \begin{pmatrix}\mathrm{\%alphaV}\left(\mathrm{V1}\right)&\mathrm{\%betaV}\left(\mathrm{V1}\right)&\mathrm{\%gammaV}\left(\mathrm{V1}\right)\\ \mathrm{\%alphaV}\left(\mathrm{V4}\right)&\mathrm{\%betaV}\left(\mathrm{V4}\right)&\mathrm{\%gammaV}\left(\mathrm{V4}\right)\\ \mathrm{\%alphaV}\left(\mathrm{V5}\right)&\mathrm{\%betaV}\left(\mathrm{V5}\right)&\mathrm{\%gammaV}\left(\mathrm{V5}\right) \end{pmatrix} $$

まずは関数を評価します。
(%i51) %,nouns;
$$ \tag{%o51} \begin{pmatrix}\frac{\mathrm{V1}^2-3\,\mathrm{V1}-6}{3}&-\frac{2\,\mathrm{V1}^2-3\,\mathrm{V1}-12}{3}&\frac{\mathrm{V1}^2-6}{3}\\ \frac{\mathrm{V4}^2-3\,\mathrm{V4}-6}{3}&-\frac{2\,\mathrm{V4}^2-3\,\mathrm{V4}-12}{3}&\frac{\mathrm{V4}^2-6}{3}\\ \frac{\mathrm{V5}^2-3\,\mathrm{V5}-6}{3}&-\frac{2\,\mathrm{V5}^2-3\,\mathrm{V5}-12}{3}&\frac{\mathrm{V5}^2-6}{3} \end{pmatrix} $$

各式の中のV1〜V6をVで表した式で置き換えます。
(%i52) %,VNCond;
$$ \tag{%o52} \begin{pmatrix}\frac{V^2-3\,V-6}{3}&-\frac{2\,V^2-3\,V-12}{3}&\frac{V^2-6}{3}\\ \frac{\left(V^2-2\,V-6\right)^2-3\,\left(V^2-2\,V-6\right)-6}{3}&-\frac{2\,\left(V^2-2\,V-6\right)^2-3\,\left(V^2-2\,V-6\right)-12}{3}&\frac{\left(V^2-2\,V-6\right)^2-6}{3}\\ \frac{\left(-V^2+V+6\right)^2-3\,\left(-V^2+V+6\right)-6}{3}&-\frac{2\,\left(-V^2+V+6\right)^2-3\,\left(-V^2+V+6\right)-12}{3}&\frac{\left(-V^2+V+6\right)^2-6}{3} \end{pmatrix} $$

次数が上がってしまった要素の次数を最小多項式を使って下げます。
(%i53) MM:matrixmap(lambda([f],remainder(f,first(p4))),%);
$$ \tag{%o53} \begin{pmatrix}\frac{V^2-3\,V-6}{3}&-\frac{2\,V^2-3\,V-12}{3}&\frac{V^2-6}{3}\\ -\frac{2\,V^2-3\,V-12}{3}&\frac{V^2-6}{3}&\frac{V^2-3\,V-6}{3}\\ \frac{V^2-6}{3}&\frac{V^2-3\,V-6}{3}&-\frac{2\,V^2-3\,V-12}{3} \end{pmatrix} $$

各式は次の3つの式の右辺のどれかですよね。
(%i54) [sol1,sol2,sol3];
$$ \tag{%o54} \left[ \alpha=\frac{V^2-3\,V-6}{3} , \beta=-\frac{2\,V^2-3\,V-12}{3} , \gamma=\frac{V^2-6}{3} \right] $$

ですから各式を上記の3つの式の対応する左辺で置き換えます。
(%i55) matrixmap(lambda([f],if(f=alphaV(V)) then alpha else if (f=betaV(V)) then beta else if (f=gammaV(V)) then gamma), MM);
$$ \tag{%o55} \begin{pmatrix}\alpha&\beta&\gamma\\ \beta&\gamma&\alpha\\ \gamma&\alpha&\beta \end{pmatrix} $$

これでお仕舞いです。このように求めた位数3の根の置換群が、元の方程式p1(\(=x^3-3\,x-1\))のガロア群です。これが今回やりたかったことでした。

 

この計算に使ったファイルを簡単に試せるように公開してみました。こちらからどうぞ。