昔からガロア理論の本を読んで、不満に思うことがありました。それは、ガロア群の具体的な求め方です。方程式の係数だけが分かっていて、解は分からない前提の議論のはずなのですが、大抵の本では、
ガロア群の具体的な例は、方程式を解いてからそれらの解の置換群、あるいは体自己同型写像を求めるのが通例である
という事実です。これでは解けている方程式は良いですが、解けない方程式や、係数を見ただけでは解けるかどうかわからない方程式のガロア群が求められません(求められることがイメージ出来ません)。また多くの本では可能な体自己同型からガロア群を決定していますが、個別の議論の結果として、巡回群だとか4元群だとか特定されます。対称群の部分群として確定させる手続きが個別の証明になっていて、機械的な手続きになっていません。そんなことを色々と考えるとやはり、
Maximaを使ってガロア群を置換群として係数だけから計算で求める
をやって見たいと考えたのです。一般的な置換群としてガロア群が求まれば、それが可解群であるかどうか、などの分析はできるはずですから、とにかくガロア群を求めたい。それも係数の情報だけから、方程式を解くことなく求めたい。
ネット上を調べるとちゃんと先人の肩に乗ることができました。
[2] ガロア論文の古典的証明(特に第4章 p52-p64)
特に[1]は非常にわかりやすく書かれており、その内容をMaximaの計算に落としていくことでやりたかったことの8割くらいはできました。実際にMaximaで実行する際にどんなコマンドを使うと簡単にできるか、などを含めてこれから数回にわたってその計算を記事にしていきます。
[2]はガロアの論文で使っている計算原理が実はユークリッドの互除法だけであると述べています「ガロアが証明の根拠として示した手法は、ほぼ互除法に尽きる。」([2], p16)。もちろん対称式を基本対称式で表すアルゴリズムは大前提としてだと思います。実際、Maximaのコードに落としていくと最初のバージョンではgcdex() (とsymパッケージ関数elem())のオンパレードでした。群論と体論による普通のガロア理論の解説を読んでいても、これらの普通のアルゴリズムでガロア理論が構成されていたことは分かりません。そんなこともこの文献で勉強できました。
[2]の第4章でガロアの原論文をこれらの計算原理に基づいて解説しています。特にガロアの原論文の補助定理IIIについては[1]よりも[2]の方が分かり易いため、こちらに基づいて計算しました。
書籍の参考文献は以下の通りです。
ガロアの時代 ガロアの数学〈第2部〉数学篇 (シュプリンガー数学クラブ)
- 作者: 彌永昌吉
- 出版社/メーカー: シュプリンガー・フェアラーク東京
- 発売日: 2002/08
- メディア: 単行本
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この本にはガロアの第1論文の日本語訳が載っています。その論文を読み直してみると [1], [2]のネットの資料で行なっていることとほぼ対応がつきます。言い換えると、もともとガロア自身が考えたガロア群の求め方は、方程式の係数から方程式を解かずに求めるやり方だったのです。しかも存在定理ではなく構成的です。
この本の良いところは、普通のガロア理論も載っているところです。群論を準備して、体論を準備して、根による拡大体の自己同型群としてガロア群を定義するやり方です。第1論文の解説に普通のガロア理論との対応も載っているので助かります。
普通のガロア理論をコンパクトにまとめた本としては、
- 作者: ジョセフロットマン,Joseph Rotman,関口次郎
- 出版社/メーカー: シュプリンガー・フェアラーク東京
- 発売日: 2000/07
- メディア: 単行本
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を参考にしています。
ガロアの原論文に基づいたガロア群の解説の本としては上記「ガロアの時代、ガロアの数学」以外に、
ガロアの群論―方程式はなぜ解けなかったのか (ブルーバックス)
- 作者: 中村亨
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/05/21
- メディア: 新書
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のような啓蒙書を参考にしました。いずれもガロア群を求めるために方程式の解を求めており、今回の役には立ちませんでした。しかしガロアの論文でよく出てくる表現(「既知ならば置換で変化しない」、など)の理解の助けには非常になりました。