Maxima で綴る数学の旅

紙と鉛筆の代わりに、数式処理システムMaxima / Macsyma を使って、数学を楽しみましょう

-その他- 京都大学数解研の本

本屋さんで

古都がはぐくむ現代数学: 京大数理解析研につどう人びと

古都がはぐくむ現代数学: 京大数理解析研につどう人びと

 

という本を見つけたことがあるのですが、最近近くの図書館に所蔵されていることを知り、借りて読みました。 

 

京大数解研といえば大学生、院生の頃、謎の研究所として恐れていました。フィールズ賞をとる数学者もいれば、Kyoto Common LispProlog-KABA, かな漢字変換Wnnなど第1級のソフトウェアを作るハッカーもいる、プログラム理論の論文もばんばん出てくる。

 

そんな研究所がどのようにして作られ、どのように発展してきたのか、どんな数学者や研究者がいて、どんな仕事をしてきたのか、丁寧に描かれています。

 

佐藤テイト予想を考えた佐藤幹夫という数学者も数解研の研究員、後には研究所長もされたそうです。

佐藤さんの主な業績は佐藤の超関数というであり、数解研でのお仕事もそちら方面が主のようです。佐藤テイト予想についても、ラマヌジャン予想との関連も含めて記載がありました。

有名なフィールズ賞受賞者である数学者広中平祐数解研の出身です。ABC予想の証明で有名な望月教授は数解研の現役数学者です。

 

このブログでもしばしば登場するCommon Lispというプログラミング言語 は仕様が大きくて、規格が発行された後、実装が出るのか、、、と言われた時代もあったのですが、彗星の如く登場したのが数解研のKyoto Common Lispでした。

プログラム中に現れる大域変数(ローカル変数でない変数)が基本は静的スコープになったこともあり、LispのコードをC言語のコードに翻訳してからCコンパイラ機械語に翻訳する処理系でした。

数解研所属の湯浅太一さんと萩山昌己さんが配布を始め、当時私が所属していた研究室でも入手して使い始めました。Franz Lispで書いたコードをKCLに移植していったものでした。

 

このブログでも時々登場するMaxima on AndroidというAndroid上で動く数式処理システムですが、ベースとなるCommon LispはECL (Embeddable Common Lisp)という処理系を使っています。

このECLをLinuxで起動するとまず以下のバナーが表示されます。


ECL (Embeddable Common-Lisp) 16.1.3 (git:UNKNOWN)
Copyright (C) 1984 Taiichi Yuasa and Masami Hagiya
Copyright (C) 1993 Giuseppe Attardi
Copyright (C) 2000 Juan J. Garcia-Ripoll
Copyright (C) 2016 Daniel Kochmanski
ECL is free software, and you are welcome to redistribute it
under certain conditions; see file 'Copyright' for details.
Type :h for Help.  
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この第2行目に表示されている二人の名前こそ、数解研でKCLを作ったお二人の名前であり、実はECLはKCLの直系の子孫の一つであることを表しています。